第149話 離れて
「あのー、こちらに貸し出し用の斧があるって聞いたんですがー」
布で出来た五角形の天幕へ入りながら、僕は用件を口にする。
トーマ君が「ここならあると思うで」って言ってたし……。
「おや、いらっしゃい。木斧かい?」
「あ、はい。ちょっと周辺の森に木を伐りに行こうかと」
「うんうん。今は材料もないからね、そうして取ってきてくれると助かるよ」
僕の声に反応してか、天幕の奥からおじさんが姿を現した。
少し太めの体に、簡素な布の服を着たその人は、煩雑に置かれた木箱の中から小さめの斧を取り出す。
僕より大きい体をしてるから余計に小さく見えるだけで、僕が持ったら結構大きいかもしれない……。
「これを貸してあげるよ。一応、この島にいる間は持っていてもいいけど、帰るときには回収させてもらうからね」
「あ、はい。わかりました」
「あと、近くに大きく森が広がってるけど、伐採なら東側の森で行ってね。そこなら、比較的魔物も少ないみたいだから」
「なるほど……。わかりました、ありがとうございます!」
「それじゃあ、よろしくね」
そう言って、おじさんは天幕の奥に消えていく。
運良く場所の情報も得れたし、おじさんの言う通り、東側の森に向かおうかな!
あ、そのまえにハスタさん拾わないと……。
元気になってれば良いんだけど……。
「アキさん、いかがでしたか?」
「あ、大丈夫です。借りれました」
天幕を出たところで、待っていてくれたらしいオリオンさんが声をかけてくれる。
そんな彼に、木斧を掲げるように見せつつ、返事を返した。
「さすが、トーマ様の情報ですね」
「ホント……トーマ君はいったいどれだけ情報を持ってるんでしょうね」
このイベントの前情報もそうだし、蜘蛛の弱点や
それでいて、交友関係も広そうだし……。
「まぁ、トーマ君のことは考えてもよく分かんないので……とりあえず、ラミナさん達を迎えに行きましょうか!」
「かしこまりました」
オリオンさんは右手をお腹の前へ構え、言葉と共に……まるで執事のように頭を下げる。
ブレない姿勢に驚きつつも、見た目のせいか違和感が無い……。
オリオンさんって、本当に執事だったり……しないよね?
「えーっと、ラミナさんは……っと」
「アーキーちゃーあああぁぁぁん!」
「ごふぅっ!?」
キョロキョロと拠点を見回しながら歩いてた僕の腰に、後ろからスゴい衝撃が走る。
咄嗟に足を前に出したことで、なんとか倒れずに済んだけど……なにごと……?
「姉さん、離れて」
「やーだー!」
「……姉さん?」
「ジョ、ジョウダンデス、ヨ?」
ラミナさんの声が聞こえたかと思うと、妙なカタコトと共に、ゆっくりと腰から腕が離れていく。
振り返らなくてもわかってたけど……やっぱりハスタさんか。
さすが猪突猛進の槍使い……突進力は伊達じゃないね……。
「姉さん、謝って」
「ごめんなさい、アキちゃん……」
「別にいいよ。ちょっとおど「違う、ラミナに」……え?」
「アキはラミナの」
そう言って、彼女は僕の右腕をぎゅっと抱く。
いつもと変わらない無表情ながらも、なんだか少し誇らしそう……に見える?
って、そうじゃなくて!?
なんで、ラミナさんはこんなに僕に懐いてるの!?
あと、その……位置が悪い!
「ら、ラミナさん!?」
「なに?」
「その……、そのですね……!」
「……そろそろよろしいですか?」
ぎゅっと腕を抱かれて慌てる僕の耳に、落ち着いた男性の声が入ってくる。
そ、そういえばもう1人いたんだった……!
「あ、あのオリオンさん……その……」
「ご心配なく、分かっておりますので。それよりも、早くパーティーを組んで向かいましょう。あまり遅くなると、日が暮れてしまいますから」
「……はい」
淡々と話すオリオンさんに、僕は頷くことしかできず、とりあえず動かせる左手でシステムを開いた。
そうこうしていると、ラミナさんが腕から離れ……手を握ってくる。
握ったり放したりと、遊ばれている右手を無視して、僕はみんなにパーティーの申請をした。
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