第148話 やれんことはない
「アキさん! こっちっす!」
手を挙げるようにして、僕を呼ぶスミスさんの方へと走っていく。
そこにいるのは彼だけじゃない。
アルさん達を除いた、拠点にいるメンバー全員と、トーマ君だ。
「いきなり念話あって、なんかと思ったわ」
「いやー、アキさんが大変そうだったし、トーマ呼んどいたら良い案くれそうだったからさ」
「トーマ君はスミスさんに呼ばれたんだ。僕はキャロさんから念話があって来たんだけど」
あの説明の最中、僕の頭に唐突にノイズが響いた。
そうして飛んできたのは、キャロさんからの念話。
内容としては、みんなで一度集まろうってことで、僕はこうして指定場所まで走ってきたんだ。
「ま、なんでもええわ。それで大体の状況は分かっとるけど、実際どうするつもりや?」
「んー……どうしよっか?」
「考えてないんかい!」
「いやーだって……僕もどうすればいいか……。ひとまず、調査とか探索から帰ってきた人が休める場所を作らないと、とは思うんだけど」
ただ、そのための人手も、材料も足りない。
ヤカタさんとかみたいな、木工をメインにやってる人が1人でもいれば、話が早いんだけどなぁ。
「なら、まずは整理しようや。休めるところを作るっても、とりあえず何ヵ所作るんや?」
「ん? んー……3ヶ所くらい?」
「他に作りたいんは?」
「取引所みたいな……。素材やアイテムの受け渡し所みたいなところかなぁ……」
「せやったら合計4つか。凝る必要はないんやろ?」
「それは、うん」
なるほど……と言いながら、トーマ君は少し考えるような素振りを見せる。
家っぽくしようと思うとやっぱり時間はかかるよね……。
でも、出店のテントみたいに
「ひとまず必要なんは図面か。あとは材料と技術者もやな」
「そうだよね……。でも、それが全く当てがないんだよ」
「確かに、俺らん中じゃ木工系のスキル取っとるやつはおらんしなぁ……」
「うんうん」
「やけど……。こんなん考え方変えるしかないやろ」
「え?」
悩んだような顔付きから一転して、ちょっと意地悪気な顔でトーマ君は僕を見る。
そして、隣に立っていたスミスさんの肩を抱いて――
「木で作れへんのなら、その部分だけ……鉄と紐で作ろうやないか!」
「は!?」
「幸い、こっちには布と鉄の職人がおるんや。使わん手はないやろ」
「いや待てトーマ! お前、なに言ってるかわかってんのか!?」
「なんやスミス。できんのか?」
「いや、出来る出来ないの話じゃなくてだな! どうやってやれってんだよ!」
んー、つまり木で作るときに難しいのは、組み合わせる部分、だよね。
図面に関しては、今建ってる建物を確認しながら描き上げて……。
材料の木の長さは……紐で調べれるかな?
キャロさんにお願いすれば、その辺りはちゃんと調整してくれそうだし。
「基本的に組み上げを紐で行って、紐を固定するのに鉄を使えば……」
「あ、アキさん!?」
「案外良い案かもしれない!」
「いやいや、そもそも材料はどうするんですか!? まさか採ってくるとかって……」
「もちろん採ってくるよ。採取は僕の得意分野だからね!」
「それはもう採取じゃなくて、伐採……」
僕の言葉に、スミスさんがなんだか諦めたような顔を見せて、顔を落とす。
まぁ、結構厳しいとは思うけど、何もしないっていうよりは良いよね。
でもそうするなら、早めに行動しなきゃ!
「で、アキさん。実際そうされるとするなら、どのように役割を分けましょうか?」
「オリオンさんは僕と一緒に来てください。木を運ばないといけないので」
「承知しました」
「キャロさんとトーマくん。あと、スミスさんはまず一緒に行動してもらって、図面を作成してください。トーマ君……たぶん、描けるよね?」
「さぁ? 知らんけど……まぁ、やれんことはないやろ」
「お前のその自信、どっから来んの?」
「そんなん、俺やからやで」
やったこともないことを振られてるのに、普段と変わらない表情でトーマ君は引き受けてくれる。
ホントにすごいなぁ……。
失敗したら、とか考えないんだろうか……。
「キャロさんもそれでいいですか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「アキ。手伝う」
「ラミナさん……」
作業場からずっと一緒にいたラミナさんが、僕の後ろからゆっくり顔を出しつつ小さく呟く。
きっと、みんな知らない人だから、ちょっと引いてたんだろうなぁ……。
「じゃあラミナさんは、僕と一緒に来てくれる?」
「姉さん、は?」
「ハスタさんも来てくれるなら嬉しいけど、大丈夫かなぁ……」
会議前に見たときは、結構死んでたけど……。
この作業も結構疲れるだろうし、厳しいなら休んでもらいたいところだけど。
「たぶん大丈夫。あとで呼ぶ」
「まぁ、その辺は任せるよ」
さてと、これで一応準備は……っと、ひとつ重要なことを忘れてた。
これがないと僕、役立たずになっちゃうよ。
「あの、スミスさん。……伐採用の斧って持ってないですか……?」
「……さすがにないっすよ」
「だよねぇ……」
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