第112話 準備のための準備

「出来れば、顔合わせをした方が良いかもしれませんね」


 オリオンさんの了承を得られてホッとした僕の横で、カナエさんがそんな提案をしてくれる。

 確かに、2人にとっては会ったことのない人ばかりだから、その方が良いのかも。


「そうですね……。アルさん達のパーティーの方も合わせて、みんなで一度顔を合わせておいた方がいいかもですね」

「私としても大いに賛成です。その時は、お店ココを会場としてご提供いたしますよ」


 おぉ!

 オリオンさんがそう言ってくれると、場所を悩まなくていいし、ゆっくりと話も出来そうだ!


「それに、私は生産職ではありますが……皆様と違い、見せるというよりも味わっていただく方がご紹介になるかと」

「あぁー……。それなら、わ……私もそうですね」

「でしたら、また、ご連絡をいただけますか? 私は早めに教えていただければお時間の調整をさせていただきますので」

「あ、はい! オリオンさんにもまたご連絡します!」

「えぇ、よろしくお願いいたします」


 話が纏まったタイミングで時間を確認すれば、17時を少し過ぎたところ。

 これはそろそろ動いておかないと、ラッシュに巻き込まれるかもしれない。


「んと、それじゃ私はここで失礼します!」

「はい。お気を付けくださいね」


 オリオンさんにお金を払い、2人に軽く会釈をして、僕はお店の外へ出た。




「す、すごかった……」

「そうですね……」


 いつもの作業場に戻り、椅子に座ってぐったりと作業台へ体を預ける。

 広場を通過するタイミングでは、まだ17時15分ほどだったんだけど……。

 新しくログインしてくるプレイヤーを待ち構えるかのように、露店やパーティー募集のプレイヤーで広場はごった返していた。

 裏道から抜けようかとも思ったんだけど、もうそんな余裕もなくて、小さくなった身体を最大限に使い、無理矢理抜けてきたのだ。


「うぐぅ……」

「お疲れ様です……」


 でも、こうやって作業台に突っ伏しているわけにはいかないよね……。

 あんまり時間も無いし、顔合わせの予定と……。

 あ、ついでにアルさん達にメンバーが揃ったってことも伝えないと。


「とりあえず、アルさん……?」

「トーマ様にもお伝えしないとですよね」

「スミスさんへはトーマ君が伝えてくれるかな?」

「たぶん、大丈夫では……?」


 なぜかお互いに断言できない……。

 トーマ君のことは信用してるんだけど……、微妙に行動が自由だから……。


「そもそも全員で会える時間ってあるのかな……」

「それは……」


 でもまぁ……、考えても仕方ないしとりあえず連絡をしていこう!

 とりあえずそこで考えるのをやめて、僕はフレンドウィンドウを立ち上げた。


「んー、ふたりともまだいるけど……。トーマ君の性格を考えると……、広場にいそうじゃない?」

「そういえばそうですね……」

「だとすると、今連絡するのはあんまり良くないかも……?」

「そうですね。後日にした方がいいかもしれません」


 それならひとまずはアルさんかな。

 戦闘中とかじゃない限りは繋がるはず……。

 そう思って、ひとまずアルさんへ念話を飛ばす。

 少しだけ待っていると、頭の中でノイズが走った。


『……アキさんか。どうした?』

「あ、アルさん。今大丈夫ですか?」

『あぁ、構わない』


 アルさんの落ち着いた声で少し緊張をほぐされつつ、僕はメンバーが揃ったこと、出来れば全員で一度顔合わせをしたいことを簡単に伝えていく。

 アルさんは口を挟まずに聞いてくれているだけだったけど、小さく反応してくれていて、非常に話しやすかった。


『なるほど……なら日時を決めたいということか』

「ですね。場所はオリオンさんが提供してくれるみたいですし……」

『イベントまで時間が無いからな。出来ることなら、一緒に持って行くアイテムの確認もしておきたい』

「あー……。確か、20種類までで全部合わせて80個まで、でした?」

『そうだな。装備品も含まれる以上、アキさん達は数が圧迫されるだろう? だから、持って行くものを俺たちにも分散出来れば多少は楽になるんじゃないかと思ってな』

「なるほど……! それはいいかもしれません!」


 それなら確かに持って行くものが増やせる……!

 例えば、僕が最低限持って行かなきゃいけない装備品7個、残りの武器で3個。

 これだけでも10種類で、携帯コンロや鍋なんかを含めていくと非常に種類が減っちゃうんだよね……。

 だけど、その代わり消耗品をいっぱい持って行くことが出来るから、数がいるものをみんなで1種類ずつとかにすれば、上手いこと色々持って行けるかも!


『とりあえず日時なんだが……、夕方から夜ならこっちは全員集まれると思う』

「わかりました。それで話をしてみます!」

『すまない。よろしく頼む』

「大丈夫ですよー! ありがとうございます!」


 僕の言葉を最後に、少しだけ間が空いて念話は切れた。

 アルさん達は夕方から夜ってことは……、やっぱり仕事とかなのかな?

 んー……、まぁ年齢は教えてくれることがあったらでいいよね!

 詮索しない方が良いって、聞いた事もあるし!


「それじゃ後はトーマ君だね!」


 ただ、トーマ君は性格的にも明日にした方がよさそうだし、今日のところはこれでログアウトしようかな。

 また明日、トーマ君がいたら連絡いれよう。

 そう結論付けてから、僕は少しだけシルフとたわいのない話をしてログアウトした。

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