第113話 不思議な水
「すまんかったな。気ぃ使わせて」
「ううん、大丈夫。アルさんにも連絡しなきゃいけなかったし。それよりもちゃんと、スミスさんには連絡しておいてね?」
「わーっとるわ。心配すんなって」
「ホントかなぁ……」
トーマ君と2人、隣り合って話しながら大通りを歩いて行く。
目的地はジェルビンさんのお家。
あの……[風化薬]の話を、詳しく聞きに行くのだ。
ちなみに、シルフとは別行動。
なんでも、他の精霊の存在を感じたとかなんとか……?
「それで、どうだった?」
「ん? なにがや?」
「昨日、新しくログインした人たちを見てたんでしょ? 面白い人いた?」
「あぁ……そうやなぁ……。何人かおったな」
トーマ君は、頭の後ろに回していた両手を前に回し、腕を組みながら話してくれる。
いきなり叫んで走っていった人とか、パーティーに誘ってきた女性を逆にナンパ仕返す男性とか……。
なんだろう……、濃い……。
「あ、あと双子おったで」
「双子?」
「なんや、同じ顔した女子でな。多分、俺らと同じくらいの年齢やと思う。赤髪と青髪でな」
「ふむふむ」
その子達の事をまとめると、ウェーブした赤髪の女の子が槍士で姉。
ショートで青髪の女の子が、剣士で妹みたい。
ゲーム内でも一緒にログインする姉妹かぁ……、仲いいのかな……?
「ま、そんくらいやな。結構おもろかったで」
「それならよかった」
そんなこんな話をしていると、ジェルビンさんのお家が見えてきた。
屋根の上の鍬が相変わらずよく目立ってる……。
「あれ?」
「ん? どした?」
「鍬が1本減ってる」
「……せやな」
確か最初に見たときは3本刺さってたはずなんだけど……、今は2本……?
……もしかして、使ってるのかな?
「アキ、置いてくで」
「あ、うん。ごめん」
屋根の上に視線を合わせたまま考えていた僕を置いて、トーマ君はさっさとお家に向かって歩いていく。
それに追いつくように少し駆け足で、僕は彼の後を追った。
「ほっほっほ。よく取ってこれたのぅ」
「そんじゃ約束通り、教えてもらうぜ?」
「分かっておる。まず、その[風化薬]の効果からおさらいといくかのう」
そう言って、ジェルビンさんは[風化薬]の効果を口頭で教えてくれる。
その内容は、アイテムの詳細と全く同じ内容だった。
[風化薬:投げることで
小さな衝撃でも旋風が出ることがあるため、取り扱い注意]
「この爆薬というものに属する薬品は、基本的に魔物への攻撃や、障害物の破壊などに使われるものじゃ。ゆえに、儂らのようなあまり外に出て魔物と戦わない者でも、その扱い方は身につけておる者が多い」
「なるほど……」
つまり、攻撃するためだけでなく、ダイナマイトのように岩を壊したりなんかでも使っていたりするのか……。
さすがにダイナマイトの使い方は知らないけど、それは現実世界と違うから仕方ないところかな……?
「この[風化薬]は爆薬の炎を、風に変えたものと認識しておれば問題はないじゃろう」
「そいつは分かった。んで、どうやってその風をこの薬ん中にいれたんや?」
「炎なら、まだ僕も知ってるので分かるんですが……」
例えば……、火炎瓶とか?
あれってたしか、ガソリンとかを瓶の中に入れるんだったっけ?
詳しくはわかんないんだけど、衝撃で飛び散って……ぶわっと……。
「その答えが、アキちゃん達に取ってきてもらったこの水じゃよ」
「……水?」
ジェルビンさんが、瓶の中に入れた水を持ち上げて揺らす。
何度見ても、普通の水に見えるんだけど……。
「あの森だけではないのじゃが……。世界にはの、『精霊の泉』と呼ばれる場所があるのじゃ」
「精霊の……泉?」
僕の言葉に頷き、ジェルビンさんはゆっくりとした口調で僕らに教えてくれた。
精霊の泉とは、魔法の力を込めることができる特殊な水が湧く場所で、その水を使うことで特殊な薬を作る事が出来るらしい。
ただし、場所によって込めやすい属性が決まっているらしく、その水ごとに決められた強さまでしか込められないとのこと。
僕らの取ってきた場所の水は、小さめの風を込めることが出来るみたいだ。
「もちろん込めるためには魔力を消費する。さらに、調整を失敗すればその水はもう使えん」
「うわぁ……」
「そうなると、あそこまで行って水を取ってきても、失敗して無くなればまた行かんとあかんのか」
「そういうことじゃな」
それはめんどくさいなぁ……。
それに多分……。
「この水と魔力だけじゃダメなんですよね?」
「よく分かったのぅ。その通りじゃ」
「あん? なんでわかったんや?」
「んー……。ほら、これって投げてぶつけたら旋風が起きるじゃない?」
「せやな」
「これをあっちの世界の火炎瓶と想定したら……、火種がないでしょ?」
「あぁ、なるほど……」
だから、その込めた魔力を『作動させるための何か』が必要なんだと思う。
そう思ってジェルビンさんへと目を合わせると、彼は嬉しそうな顔で頷いた。
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