第105話 2人だけの祝賀会
手に持った[風邪薬(液)]を鼻に近づけてみても、臭いは特にない。
これなら、飲んでみてもあまり苦くないのでは……?
ひとまずそう思うことにして、僕はそれを一気にあおった!
うん、これなら全然――。
「んぐっ!?」
お薬の味、とでも言えばいいんだろうか……。
ポーションみたいにお薬はお薬と言っても、薬草由来の味――近いのは緑野菜の味が出たような苦味とかではなくて……。
本当に、お薬の味がする……。
「現実のお薬の味、みたい」
「はあ……?」
僕の呟きに、シルフはピンと来ていないのか、困惑した顔で声を漏らした。
この味を何て表現すればいいのか……。
「こう……、特になにかがコレってわけじゃなくて……、苦いというか……」
「……?」
ポーションみたいに、薬草のえぐみとか苦味が、喉の奥から戻ってきて不味いとかじゃなくて、ただ苦い。
今だって、飲み終わった後に奥から戻ってくるって感じはないし……。
そう、だからただ単に苦いんだ。
「でも、ただ苦いだけなんだけど、子供には辛いかなぁ……」
「お薬って大人の方でも、飲まなくても良いものなら飲まないですよね」
「そうなんだよね。けど大人なら、早く治すために飲まなきゃって思って飲むんだろうけど、子供ってそう割り切って考えれないというか……」
僕だって昔はお薬が嫌いで、なかなか飲まなくて余計に風邪を悪化させたりとかしちゃってたし。
だから、ガラッドさんのお子さんの気持ちもなんとなくわかるというか……。
もちろん、今は全然そんなことしないし、お薬はちゃんと飲むけどね。
「まぁ、嫌がる気持ちもわかるんだよね。けど、それで余計に拗らせちゃうのも可哀想だし」
「そうですね」
「だからできるだけ早く持っていってあげないとね!」
「はい!」
そう言って、シルフと気合いを入れ直す。
薬草とは味が違うけど、同じように苦味があるってことを考えれば、中和剤で苦味の抽出ができる可能性は高いはず。
中和剤と一緒に煮込んでみて、上手いこと抽出できたら、ひとまず手持ちのアルペと合わせてみよう。
アルペで上手くいくなら、オレアでも上手くいくだろうし……ただ、味の調整はオレアの果汁入りを飲んでみないとわかんないだろうけど……。
「それじゃシルフ、ひとまず鍋を洗ってさっきと同じだけ水を入れてくれる?」
「あ、はい」
「僕はその間に……、アルペを搾らないと……」
というのも、ポーションを作ると1回でアルペ1個を使うから。
何個かまとめて搾っておきたいんだけど、搾ってしまうと腐敗が早くなりそうだし……。
さすがに、腐っても速効性みたいな激臭はしないとは思うんだけどね……。
そんなことを考えながらサクサクっとアルペを切り、布の中に入れる。
そのタイミングを見計らってか、シルフが僕へと両手を差し出した。
「アキ様……、私が搾りましょうか……?」
「んー、ありがとう。でも大丈夫だよ」
「そう、ですか……?」
「うん。だからシルフはこっちをお願いね?」
頷きながら差し出された手に、中和剤を渡す。
別にシルフに搾ってもらうのは構わないんだけど、搾るのって力作業だからね。
精霊っていっても女の子だから、力仕事はちょっとね。
「まぁ、僕も今は女なんだけどね……」
「ん? アキ様?」
「いや、なんでもないよ」
「そうです……?」
「うん、気にしないで、ね?」
若干、納得がいってないような表情を見せつつも、シルフは鍋の方へと向き直る。
それを見て、僕はアルペ搾りに集中した。
「……これでおっけーっと」
「アキ様、お疲れ様です」
「うん、シルフもお手伝いありがとね」
「いえ、そんな……」
途中、いつもと違う分量に戸惑ったりもしたけれど、果汁入り風邪薬はなんとか完成した。
その証拠に、僕らの前の作業台には瓶に入った風邪薬が置かれている。
「けど、アルペの果汁が余っちゃったね。……シルフ、飲んでみる?」
「え!? いいのですか!?」
「ぇ、うん。余らせて置いとくのも怖いしね」
「ありがとうございます……! あ、でもアキ様が飲まれても……」
カップにアルペの果汁を入れて、シルフへと渡す。
彼女はそれを嬉しそうに受け取りながら、ふと気付いたように僕へと渡そうとしてきた。
シルフから差し出されたカップを笑いながら押し返し、僕は空いた手で、作業台の瓶を掴んで持ち上げた。
「僕にはこっちがあるから。シルフはそっちを飲んでいいよ」
「あ、でも……」
「大丈夫。上手くいってるなら、美味しいはずだから」
「そうですけど……」
「大丈夫、大丈夫。ほらシルフ、かんぱーい」
「か、かんぱーい……です」
初めての乾杯に、慣れていないシルフと笑いながら飲んだ風邪薬は、美味しいアルペの味がした。
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