第103話 甘くてすっきり

「今回は捨てちゃおっか。取っておきたいけど、これから何度も作ることになりそうだし、今はいいや」

「そうですね。それでしたら、流して洗っておきます」

「うん、お願い」


 ざくざくと切った[薬草(純)]をお皿の上に移して、シルフの隣でまな板と包丁を洗う。

 そして、洗い終わったものから布で水気を拭き取り、鍋に水を入れた。


「とと、追加する果汁の量だけいつもより減らして……」


 水の量を調整した鍋をコンロの上に置き、火をつける。。

 その後、搾ったアルペの果汁を中に入れていき、混ざるようにお玉でかき混ぜていく。


「それなりに混ざったところで、薬草を入れてっと」

「アキ様、お皿を」

「あ、うん。お願いします」


 薬草を載せていたお皿をシルフに渡して洗ってもらいつつ、僕は鍋の中身をかき混ぜる。

 色合いに注意しながらゆっくりと混ぜていけば、だんだんと薬草の色が鍋の中に広がってきた。

 よくよく見てみれば、上がってくる灰汁の量も少ない気がする。

 これも中和剤の効果なのかもしれない……。


「どうですか?」

「んー、いい感じかな」

「なんだかいつもより甘い匂いがしますね」

「あー、確かにそうかも」


 たぶんアルペの匂いが上がってきてるのかな?

 前回やった時は匂いがなかった気がするし、これも中和剤で薬草の苦みを抜いた結果なのかも?


 そんなことを考えつつ鍋の中身を見ていれば、中身は程よい緑になっていた。

 火を消して、最後に取り損ねていた灰汁を取ってから、シルフに冷ましてもらう。

 うん、良い匂いがしてるし、これは成功の予感がするね!


「なんだか美味しそうな匂いになりましたね」

「そうだね。結構期待できそうな気がするよ!」


 テンション高めにシルフと話しつつ、鍋の中身を瓶へと移していく。

 今回もいつもと同じ10本の瓶をいっぱいにして、鍋の中身はすべて無くなった。

 瓶を持ち上げてみれば、いつもより少し色味が薄い……?

 普段のポーションと比べてみれば、緑色というよりどちらかと言えば黄緑色に近い色に変わっていた。


「アルペの色が混じったからかな?」

「そうですね。中の実と似た色になってるように見えます」

「アルペも皮の色は薄緑だけど、中の実は少し黄緑に近い色だもんね」


 前回の一応成功品扱いのアルペ果汁入りポーションは、ここまで色が変わってなかった。

 ということは、今回はまた違う結果になりそうかも。


[最下級ポーション(良):10秒かけてHPが20%回復

苦みを抑え、果汁を入れたことにより、甘く飲みやすいものになっている]


「……!」

「アキ様! アキ様!」

「やったね! できたね!」


 飛び跳ねるようにしながら、シルフと二人で笑い合う。

 これで、飲んでも大丈夫そうなら、やっと飲みやすいポーションの完成!

 後回しにしていた、アルさんからの依頼も何とかなりそうだ!


「よし、それじゃ飲んでみる……かな!」

「はい! 一応、お水用意しておきますね」

「うん、ありがと」


 前回と同じく、シルフがカップに水を入れてくれるのを確認しつつ、僕は小さく息を吐く。

 今回は詳細も変わってるし、きっと大丈夫……。

 前回みたいに、甘みと苦みの二重苦にはなってないはず……。


「よし!」


 瓶を右手で持ち、左手を腰に当てて、一気にあおる!

 その勢いに比例するように、瓶の中身も勢いよく僕の口の中へと流れてきた。


「……!」


 口の中に広がる、甘くてさっぱりとした味。

 それは、現実でのリンゴとよく似たアルペの味で、苦みを感じにくいからか喉越しもすっきり。

 果実由来の喉に引っかかる感じはあるものの、あまり不快な感じではないのが、嬉しい。


「どうしよう、シルフ……」

「え? ダメでした……?」

「これ、美味しい……」

「え? あ、はい」


 僕の感想に、喜んでいいのか、真面目に返すべきなのか、戸惑うように、彼女は首を傾げた。

 いや、僕も喜びたいんだけど……なんだろう、ポーションが美味しいから?

 逆に、これで成功なのか疑ってしまいそうになる。

 いや、成功なんだけど……。


「えっと、おめでとうございます?」

「あ、はい。ありがとうございます?」


 お互い何故か素直に喜べない雰囲気になりつつ、首を傾げる。

 でも、ひとまずはこれで完成、かな?

 この味ならアルさんも飲めるだろうし、今度渡してみようかな。

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