第102話 名前と中身と
耐えるように少しだけ力の入った僕の口の中に、ポーションが流れ込んでくる。
ドロリとした食感と、ほんの少しの苦み。
あ、これなら何とかなりそうな気がする……?
喉を鳴らして飲み込んでみても、絡みつくような感じはほとんど無い。
「飲みやすく……、なってる」
瓶から口を離せば、自然とそんな感想がこぼれた。
色味は変わってないのに……、味は全然違う……。
「ここまで抑えられてるなら、大丈夫かな?」
「大丈夫そうです……?」
問題だった苦みもほとんど無くなってるし、多分大丈夫……、たぶん……。
シルフがくれた水を飲めば、多少あった喉へのベタつきも楽になっていく。
でも、なんで飲みやすくなったのに回復量が増えなかったんだろう……。
使用してる薬草自体は、回復量が増えてたのに……。
「そういえば、アイテムの名前は変わってなかったっけ……」
つまり、アイテム毎に決められた回復量があって、そこは変化しないけれど、それ以外は変化する、ってことかな……?
ただ、今回みたいに、通常のやり方以外にも何かしら手順を挟む必要はあるみたいだけど……。
「あ、あの……アキ様」
「ん?」
「上手く、いきそうですか……?」
空のカップを受け取りながら、心配そうな顔でシルフは僕に聞く。
きっと、ほとんどしゃべらないで、考え込んでたからだろう。
「んー……、たぶん大丈夫だと思う。ありがとう、シルフ」
安心させるように、いつもより少しだけ優しい声で。
僕のその気持ちが伝わったのか、彼女は笑顔へと表情を変えて頷いた。
ひとまず、この状態ならアルペの実の果汁で作ってもいけそうな気がする……。
あの時は失敗したけど、味自体は混ざってたから、混ぜるタイミングとしては前回試した時と同じで大丈夫……かな……。
となると、またアルペの実を搾るところからかなぁ……。
「先にアルペの実を搾っておいて、それからまた薬草の苦みを取って……」
台所に備え付けられてる窓から外を見てみれば、空は結構赤くなっていた。
やれるとしても、今日はもう1回ってところかなぁ……。
2日後に第2生産分の人がログイン開始で、9日後にイベント。
できればイベントまでに、ガラッドさんに新しい武器を作ってもらいたいから……。
「明日か、明後日までには条件をクリアしたい……かな……」
「あの様子ですと、一つの武器を作るのに、何度も作り直しされそうですから……」
「まぁ、でも作るのって大変だから……」
「ですね……」
全く違う分野だけど、作りだすってことには変わりがないから。
だからこそ、ガラッドさんに頑張ってもらうために、僕も頑張らないと!
「よし!」
軽く手を両手を握り、気合を入れてから僕はアルペの実を取り出した。
それをまな板の上に置いてから、鍋の中に水を張り、火にかけて温める。
シルフに中和剤を渡して、温まった時点で入れてもらうようにお願いして……。
僕の方は、アルペの実を細かく刻み、布でくるんで用意したすり鉢の中に絞っていく。
「アキ様、溶けたみたいなので薬草を頂いてもよろしいですか?」
「ん、わかった」
片手でインベントリを操作して、取り出した薬草をシルフに手渡す。
そして、シルフはすぐにそれを鍋に入れたのか、少しして、コンロの上の鍋からぼこぼこと音が立ち始めた。
大丈夫ってわかってても、やっぱり怖いなぁ……。
「アキ様、こっちは何とかなりそうですけど……」
「僕の方ももう少しで搾れると思うし、その間にまな板を洗っといてもらえる……?」
「はい! お任せください!」
コンロの火を落としてから、シルフは手際よくまな板と包丁を洗っていく。
それを確認してから、僕の方も手に力を入れて、最後まで絞っていく。
よし、これくらい搾れれば大丈夫……。
別のお皿に、布とアルペを置いて、シルフの横で手を洗った。
「あー……、やっぱり疲れる……」
「何かいい道具があればいいんですけど……」
「搾るのにいい道具……かぁ……」
おばちゃんに聞けばわかるかもしれないけど、思いつかないなぁ……。
レモンとかに使えるやつなら、あっちの世界でも見たことあるけど……。
「それはとりあえず後にして、薬草を鍋から出そっか」
「はい!」
シルフに置いてもらったまな板の上に、鍋から取り出した薬草を置く。
やっぱり少しハリがある感じになってるみたいだ。
「うん、いい色だね……。あっちの中身は見ないふりしたいけど……」
「あ、あはは……」
と言っても、ポーションを作るならアレはアレで捨てるか取っておくかしないとなぁ……。
そんなことを考えながら、僕はざくざくと薬草を刻んだ。
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