第84話 交換条件

「僕の武器……ですか?」


 アルさんが言った言葉を、おうむ返しするように口に出す。

 けど、僕の武器って……。


「アル、わかっちゃいると思うが……、儂は気に入ったやつの気に入った武器しか作らねぇぞ?」

「あぁ、それはわかってます」

「はっ、言うじゃねぇか。で、何を依頼してぇんだ?」

「採取道具、ですよ」


 その言葉にガラッドさんの顔から笑いが消える。

 少し驚いた顔で僕を見て、なにかを呟いた。

 僕にはその言葉は聞こえなかったけど……。


「っはー……、採取道具、ねぇ……」

「アキさん、道具を出してもらってもいいかい?」

「あ、はい」


 アルさんに言われて、インベントリから採取道具を取り出し、アルさんが用意してくれた台の上においていく。

 草刈鎌、ノミ、木槌、つるはし。

 このうち、木槌はボロボロになっていてすでに壊れそうだし、つるはしはまだ使ったこともない。

 よくよく見れば、草刈鎌も刃が少し欠けているみたいだ。


「ひっでぇもんだな……。特に、これじゃもう木槌はつかえねぇぞ」

「そう、ですよね……」

「だがまぁ、この壊れかたってこったぁ……。道具が嬢ちゃんにあってねぇな」

「そう、なんですか……?」


 ガラッドさんが言うには、力のかかっている位置がどうやら悪いらしく、木槌に変に力がかかっている、とのことだった。

 見れば、それとなく言ってることはわかるんだけど……。


「んで、これをどうしろってんだ?」

「できれば、アキさんに合った大きさや形で道具を作ってくれないだろうか?」

「って言われてもなぁ……」


 アルさんの言葉に、困ったようにガラッドさんは頭を掻く。

 そして、身体ごと僕の方に向けて、口を開いた。


「あー……、嬢ちゃん。確か薬師見習いだったよな?」

「ぇ、あ、はい」

「そんじゃひとつ、頼まれてくれねぇか?」

「ぼ……私に、ですか……?」


 つまり、交換条件ってことなのかな?

 薬師ってことは、お薬関係のことなのかな……?


「儂とこの娘がな、この間こないだの雨で風邪引きやがってよ。薬飲めってんじゃが……、薬が苦手じゃて飲まんのじゃ」

「ふむふむ」

「長引くばかりじゃからな……。どうにか飲めるようにしてくれねぇか?」

「なるほど……」


 つまり風邪のお子さんにお薬を飲ませたいってことか。

 んー……、交換条件だし、それを抜いても受けてあげたいけど……。


「ちなみに、そのお薬って……。形状は……?」

「あぁ、なんじゃったか……。たしか、粉じゃったか」


 ふむ、それなら大丈夫……かなぁ……。

 味を抑えて飲めるようにするわけだし、[薬草(粉末)]と考え方は同じはず……。

 そっちで色々試してみて、上手くいったら風邪薬の方にも流用できるかも……?


「わかりました、出来るかわからないですけど……」

「おう、たのんだぞ嬢ちゃん。薬はアルジェにでも聞いてくれ」

「あ、はい」


 僕が返事を返すと、ガラッドさんは少し笑ってくれる。

 そしてアルさんへと向き直り、その頭をはたいた。


「ぐっ!? なん……です、いきなり?」

少しはちったぁ儂にも憂さ晴らしさせろってんだ。折角の黒鉄クロガネをこんな短期間でぶっ壊しやがって……」

「それはまぁ……、すいません」


 あの2人的には、軽くはたいたレベルだったんだろう……。

 アルさんも特に気にせず話を続けてる。

 でも、僕からするとかなり痛そうな音がしてたんだけど……。


「んで、今度はもっと、ってか?」

「あぁ、お願いできますか?」

「簡単に言いやがって……。とりあえず材料が足らねぇな」

「ふむ……。取ってくればいいんですか?」

「おう、とりあえず前回と一緒だ。西の山で取れる鉄鉱石テッコウセキ炭黒土タンコクド、それから白泥ハクデイでいい。武器はその辺の打ち損じ持っていきやがれ」


 鉄鉱石に、炭黒土、それに白泥……?

 あと、西のってことは、この間の森とは反対方向だ。

 行ったことないなぁ……、いつも森に行ってたし……。

 今度冒険するときは、山に向かってみるのもいいかも。


「あぁ、すまない。これを借りていこう」

「はっ、今度は壊すなよ?」

「善処はする」


 そう言って、アルさんは工房の隅で積み重ねられていた剣から、少し幅広の剣を掴み、腰に差す。

 やはり、いつもの大剣じゃないからか、少し変な感じがするけど……。


「それじゃ、ガラッドさん。また」

「おう、次は用意してから来やがれ。嬢ちゃんも頼んだぞ」

「あ、はい。失礼します」


 軽く頭を下げて、工房の扉をくぐり、外へ出る。

 やっぱり工房の中は暑かったのか、外に出た瞬間、少し肌寒さを感じてしまった。


「アキさん、大変だと思うが……」

「いえ、ありがとうございます。ちょっと自信ないですけど、やるだけやってみます」

「あぁ、頑張って。何かあったら、連絡をくれ」

「はい、その時は頼らせていただきます」


 話ながら、中央広場に向けて歩く。

 アルさんは、今日は他のメンバーの都合がつかないみたいで、ログアウトするみたいだ。

 僕の方は……、ひとまずおばちゃんに、薬の情報を聞きに行こうかな?

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