第82話 夜明け前
「これをもって帰りゃ、依頼は達成やな」
湖の水を皮袋にいれて、トーマ君がそう呟く。
目の前に広がる湖はそれなりに大きく、一周回ろうと思うと、たぶん10分ほどはかかりそうだ。
今は夜だから暗い雰囲気だけど、晴れた日のお昼辺りにくれば、綺麗な景色が観れる気がする。
「アルさん、お待たせしました」
座りつつも周辺を警戒してくれていたアルさんに、後ろから声をかけた。
身じろぎをするアルさんから、視線を横に移せば、アルさんの武器が置かれていて……。
「アルさん、それって……」
「ん? あぁ、これか……」
アルさんも僕の視線に気づいたのか、大剣の方へと目を向ける。
そして、少し優しい手つきで、刀身に入ったヒビを撫でた。
「別に、トーマに貸したからこうなった訳じゃないぞ。大蜘蛛の相手をしている時点で、変な音はし始めてたからな」
「それでも、そこまで大きく入ったのは……」
「気にすることじゃない。どちらにせよ、俺みたいな使い方してれば、近々同じことになってただろう」
「でも……」
隣にしゃがんだ僕の頭を荒く撫でる。
きっと、気にするなって、ことなんだろう。
「それより、終わったならそろそろ行こうか」
言葉と一緒に、僕から手を離し立ち上がる。
森に来たときよりも雨は弱くなってはいたけれど、朝までここに留まるのはあんまり良くない。
魔物が水を求めてやってくる可能性だってある。
そうなった場合は、ここで戦う必要が出てくるけれど……。
「トーマ君のダガーは壊れちゃったし……。それに僕の木槌も結構ボロボロになっちゃってる」
戦闘になれば、大剣も木槌も、どのタイミングで壊れるかわからない。
そうなってしまえば、戦うことが厳しくなるのは予想できるから。
「心配せんでも俺が先行するし、様子見ながら戻りゃ大丈夫やろ」
「トーマ君……」
「あぁ、任せたぞ」
アルさんの言葉に頷いて、トーマ君は姿を消す。
その動きだけでも、お互いが信頼しあってることが、すごく伝わってきた。
昨日、街をでてすぐ単独行動し始めたトーマ君に、大丈夫か心配になったけれど、今となってはこの2人に任せてよかったって、心の底から思う。
もちろん途中で一緒になったカナエさんにも、感謝しきれない。
カナエさんがいなければ、大蜘蛛はおろか、取り巻きの蜘蛛にだって勝てなかったかもしれないし……。
「運が、よかったってことなのかな……?」
「ん?」
「あ、いえ、あの……。カナエさんと途中で会えて良かったなぁって……」
「あぁ、確かにそうだな」
「ふふ、私の方こそ、助けていただきありがとうございました」
そんな風に、小雨の降っている夜の森を、小さな声で話しながら歩く。
時折、進む方向を変えたりもしたが、2時間ほど歩き続けたことで、ようやく森の外に出ることができそうだ。
途中、雨が止んだおかげで歩きやすくなったのが、僕としてはありがたかったけど。
「ここまでくりゃ、もう大丈夫やろ」
「あぁ、誘導助かった」
森の外で待ってくれていたトーマ君と合流して、街の方へと向かう。
まだ日が昇る前だから、門は開いてないみたいだけど、門の周辺には明かりが見えた。
きっと、夜営をしてる人がいるんだろうなぁ……。
「あ、こっちの世界にもテントとかあるんですね」
「あぁ。遠出する冒険者には必須のアイテムだな」
「つーて、パーティーでひとつふたつありゃ問題ないで。それに、アキみたいな基本ソロやと持ってないってやつも多いしな」
「そうなのか?」
「あぁ、せやで。パーティー単位やったら、交代で見張り立てられるんやけど、ソロやとできんしな。それに……」
お互いソロ主体とパーティー主体で違いがあるからか、テントや野営の話を続ける二人。
そんな二人とは違う方へ目を向ければ、カナエさんが楽しそうに笑っていた。
「カナエさん、どうしました?」
「あ、いえ。……なんだか、楽しくて」
「そう? ぼ……じゃなくて、私には話が難しくなっててわかんないんだけど……」
「えぇ、とても。パーティーって、良いですね」
そう言って笑うカナエさんの顔は、どこか寂しげでもあって……。
僕にはその理由を、聞くことができなかった。
「そういえば、もうすぐイベントをするみたいですね?」
「そうなんですか?」
「えぇ、アキさんは知らなかったですか? 少し前から街のあちこちで告知がされてたのですが……」
言われてから、よくよく考えると……、僕、あんまり外に出てないような……。
「あぁ、それなら俺もみたな。たしか第2生産版が発売される記念だったか……?」
「街の告知に書いてあんのは、新たなる移住者を迎える記念やな。 つーて、あの告知が見えんのは俺らプレイヤーだけみたいやがな」
トーマ君が言うには、プレイヤー以外の住民には白紙の紙に見えるみたいで、そんな予定も立ってないってことらしい。
つまり、完全にプレイヤーをターゲットにしたイベントってことみたいだ。
「それで、それはいつから、あとなにをするの?」
「日は確か、第2生産版が発売された1週間後だったか?」
「せやな、大体今から2週間弱ってところや。あと内容は不明やな」
内容不明、かぁ……。
でも、新規プレイヤーも参加できるようにってことなら、厳しいイベントじゃないとは思うんだけど……。
「でも、今はそれより……。ちょっと寝たいかなぁ……」
僕の呟きに、みんな深く頷いて、笑う。
空は暗くてまだ日は昇らないけれど、みんなといる時間が、なんだかとても輝いて見えた。
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名前:アキ
性別:女
称号:ユニーク<風の加護>
武器:草刈鎌
防具:ホワイトリボン
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トレッキングブーツ
スキル:<採取Lv.11><調薬Lv.13><戦闘採取術Lv.9→11><鑑定Lv.3><予見Lv.1>
精霊:シルフ
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