第73話 予想通りの……?

「なるほど。どーりで蜘蛛の巣全体と、壁までの距離感が違うわけや」


 開いた壁の前で、先を見ながらトーマ君がそう言った。

 ちなみに、アルさんは「トーマの方がそういった話は向いている」と、早々に戦闘へ戻ってたりする。

 カナエさんもアルさんを隣でサポートしてるみたいだ


「しっかし、心配はいらんみたいやな。あの姉さん、疲れた素振りさえみせてへん」

「魔法って使用回数があるんだっけ? たしか、精神力MPを使うから人それぞれって聞いたけど」

「せやな。使いすぎると、視界やらなんやらがおかしくなるらしいで」


 トーマ君の言葉に合わせて、戦っているカナエさんの方を見てみても、そんな雰囲気は微塵も感じられない。

 それはつまり、あれだけの魔法を使っても、ほとんど影響がでてないってことだ。


「今日は雨が降っとるし、普段に比べりゃ魔法の行使も楽かもしれんが……。それでもありゃ異常やで」

「ん? 雨が降ってると楽なの?」

「水魔法は、やな。それぞれに近しいもんがありゃ、楽になるらしいで」

「なるほど……」

「ま、イメージのしやすさが違うんか、それ以外の要因か、は分からんけどな」


 そんな話をしながら、実際に小部屋の方に移動して、辺りを確認してみる。

 四方を糸で固められてるのもあってか、なんだか妙な感じ。


「位置的には、前のあの壁が中心辺りやな」

「そうなの? だとすると、あと2回くらいは同じ事しないといけないってことかな」

「最奥まで同じやったらな」


 でも、水が苦手な魔物が、雨の日にここまで大きい巣を作る必要ってなんだろう……?

 何かを守るため、とか?


「しかしアレやな。妙やな」

「妙? 何が?」

「どうにも誘い込まれとるような気もするわ。最奥までな」


 言って、トーマ君は腕を組み、不機嫌そうな顔を見せる。

 多分、何かの手のひらの上で転がされてるって状況が、面白くないのかな?


「最奥に、か」

「昔っからRPGなんかのお決まりやな。奥にボスが待ち構えてたりするんやで」

「あー、確かに」


 言われてみればそんな感じもするかもしれない。

 ただ、もしそうだとすると……このまま進むのは危険かな?

 とりあえずアルさんに伝えて、一緒に進む方が良いかもしれない。


 そう思った僕は、再度シルフにお願いして、アルさんを呼んでもらった。


「……なるほどな。確かにボスの可能性はあるか」

「せやろ? やから、先に進むんならアル達も一緒に頼むわ」

「ああ、そうしよう」


 トーマ君の説明にアルさんも賛成し、全員で壁を通り抜ける。

 そして今度は全員で一気に奥の壁へと走り抜けた。


「アキさんは、先ほどと同じように頼む」

「わかりました」

「俺も手伝うわ。小部屋になっとる分、守りやすいやろうし、その方が効率がええはずや」

「それもそうだな。ならトーマはアキさんの指示で動いてくれ」


 そう言って、アルさんはカナエさんを連れて、僕らから少し距離を取る。

 守りやすいと言っても、そんな長時間は難しいだろうし、できるだけ急いで作業するかな。

 僕はトーマ君にやり方を見せてから、トーマ君にも同じようにやってもらう。

 お互いに左右反対側の木をやっていけば、速度は単純に2倍になるはず……。

 しかし――


「やっぱアキのが早いか」

「スキルの差かな。<採取>と<戦闘採取術>があるから、その辺の違いかも」

「せやなぁ……」


 そんな話をしつつも、ある程度壁を開けることができたタイミングで、僕はトーマ君から作業を引き継ぐ。

 その代わりに、トーマ君には壁の向こう側を確認してもらうことにした。


「やっぱ予想通りやな」


 数分程度経ってから帰ってきた彼は、渋い顔をしながらそう言った。

 予想通りってことは、やっぱりそういうことなんだろうか?


「距離的に次が最後の壁っぽいが、なんかおる気がするわ」

「何かって……ボスってこと?」

「わからん。やけど、なんかに見られとる感じはあったで」


 彼の言葉に「そっか」と返しつつ、インベントリの中身を確認。

 [回復錠]と[薬草(軟膏)]はあるし、ポーション類もまだ多少余裕はある。


「トーマ君はまだポーションとかは足りそう?」

「俺は全然使ってへんから問題ない。ただ、アルはなんだかんだで飲んでたからなぁ……」

「それなら、アルさんにはまた渡しておこうかな。カナエさんにも渡さないとだし」

「足りるか?」

「なんとかって感じかな。でも、もしボス戦ならこれで終わりって感じだから、帰ったらまた補充しないとってところ」


 「そっか。すまんな」と頭を掻くトーマ君に、僕は首を振って笑う。

 僕に出来るのは、今のところこのくらいだから。

 アルさんとカナエさんに渡すポーションを取り出しつつ、僕はそんなことを思った。

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