第72話 糸巻き

「結局は、ここを抜けるのが一番早いと……そういうわけだな?」


 あれから色々話し合い、最終的にカナエさんをパーティーに迎え入れることとなった。

 その後、少しの休憩を挟んでから穴を出て、僕らは目的の場所へと辿り着いた。

 前方には道を塞ぐように張り巡らされた糸の壁。

 そこは、僕らが当初抜けようとした場所だった。


「全体を見て回ったんやけどな、ここが一番薄い。つまり抜けやすいってことや」

「でもそれだと、罠の可能性もありませんか?」

「姉さんの言う通りや。もちろんその可能性もある」

「だが、それはどこを抜けようとしても変わらない。そうだろう?」


 アルさんはそう言って背中に背負っていた大剣を抜き、両手で構える。

 そんな彼の姿に、トーマ君も「違いねぇ」と、小さく笑った。


「だが、仮に罠だとするならば……ただ突っ込むのも危険か」

「そうですね。前回のように分断されでもしたら……」


 あの蜘蛛との戦いを思い出してしまい、思わず右手に力が入る。

 僕だけがまた分断されたら……今度はどうなるんだろうか?

 勝てる、だろうか……?


「ま、せやったら別の考えでいこうやないか」


 壁を前に悩んでいた僕らに向けて、トーマ君が軽い声でそう言い放つ。

 なんだろう……僕の方を向いてる気がする。


「別の考え? トーマ、何か思いついてるのか?」

「壁があって邪魔なら、壁を採ってまうってことやで。つまりは……アキ、君の出番や」

「え!?」

「この蜘蛛の糸を採取だと……!? そんな……いや、可能……か?」

「た、試してみないことには、わからないですけど……」


 歯切れの悪いアルさんに微妙な返事を返しつつも、インベントリを操作して道具を取り出していく。

 今回使うとしたら……ノミと木槌、それから草刈鎌かな?


 そういえばカナエさんを助けた時に、不思議な感覚があったっけ?

 今は落ち着いてるし、ついでにスキルを見ておこう……そんな思いでスキルをチェックすれば、森に来る前に比べて<採取>のレベルが1、<戦闘採取術>のレベルが2上がっていた。

 さらに、<予見>という新しいスキルが増えていた。


「予見……?」


 不思議に思い、<予見>スキルを確認してみると……未来を見る力・・・・・・、とだけ書かれていた。

 発動条件も何もわからない?


「アキさん? どうかしたか?」

「いえ、なんだか新しいスキルが増えてまして。<予見>ってスキルなんですが」

「ふむ……。聞いたことがないな」

「私もないですね。習得条件が特殊なスキルでしょうか?」

「かもしれないな。トーマは知ってるか?」

「いや、俺も知らん。ただ、近いスキルは知ってるで。<予知>や」


 どちらも聞いた事がないのか、首を傾げるアルさん達に対し、トーマ君は特に表情も変えず説明を加えていく。


「<予知>ってのは名前の通り、未来を知るスキルや。ただ、不確定らしくてな、占いなんかが近いらしいで」

「なるほど……。<予知>が未来を知るスキルなら、<予見>は未来を見るスキル……ということか」

「スキル説明にもそう書かれてますけど……漠然としすぎてて」

「ま、発動条件もわからんのやったら、今は気にせんことや」


 悩む僕に、トーマ君はそう言って話を切る。

 まぁ確かに……今悩むべきはこっちじゃないけどさ。


「話を戻そう。アキさん、トーマの案は出来そうか?」

「作業に集中出来れば可能かな、とは。といっても、やっぱり試してみないことにはわからないですけど」


 言いながら辺りを見まわして、手頃な枝を数本選び取ると、木槌とノミを使って余計な小枝を落としていく。

 突然何かを始めた僕をアルさん達は不思議そうに見ていたけれど、トーマ君だけは何をやってるのか分かったらしく、僕の代わりに近くから枝を集めて渡してくれた。

 そのおかげで、数分と掛からずに15本ほどの枝を準備することができた。


「よし! これで大丈夫です」

「よく分からないが……準備が出来たなら行こうか。俺が正面を引き受けるから、トーマは出てきた蜘蛛を倒してくれ。カナエさんは、アキさんの周囲でアキさんを守ってください。アキさんは作業を最優先に」

「りょーかい。んじゃ先に出るわ」

「分かりました。カナエさん、よろしくお願いします」

「はい、承りました。アキさんに攻撃がいかないよう、頑張りますね」


 全員の返事を待ってから、トーマ君が飛び出していく。

 その背中を見送り、僕らはアルさんを先頭に壁へと向かった。


 壁から少し離れた場所でアルさんが反転すると、僕とカナエさんは彼を追い越してさらに壁へと近づく。

 んー……間近で見ると結構大きいなぁ……。


「では、アキさん。お願いしますね」

「はい。やってみます」


 まずは試しに糸へと触れてみる。

 くっつくかと思ったけど、そんなこともなく、ピンと張られた糸の感触が返ってきただけだった。

 これなら予定通りの方法でいけそうかな?


「まずは木に巻き付いてるところを切って……」


 開始点は前方少し左の木……その膝下の辺りに設定し、ノミを突き立てる。

 少し硬いのか、突き刺しただけではあまり切れなかったので、上から木槌を叩き込んで、しっかりと断ち切った。

 そこから上へ10cmほど同じ要領で切り、上下の切れ端から右側へと小さく切れ込みを入れる。

 切れ端を木の枝に巻き付けて、ぐるぐると巻き込むようにしながら、右側へと向かい……時折草刈鎌で邪魔な糸を断ち切りつつ、右側の木付近で、手に持った木の枝を地面に突き刺した。


「あとは、こっちの木から糸を切り離してっと」


 先ほどと同じやり方で、糸を断ち切って枝に巻き付ける。

 まずはこれで1つ、か。

 これは結構時間がかかりそうだ。


 チラリと後ろを確認すれば、カナエさんの持っている杖の先から、水の玉が発射されていた。

 大きさ的には蜘蛛と同じくらいだけど……結構威力がありそうだなぁ……。

 アルさんは相変わらず糸を引っ張っては叩きつけて、近づいては斬ってと大暴れしてるし、トーマ君は……今、一瞬影が見えた気がする。

 木の上だったけど。


「っと、集中集中!」


 今度は折り返すように右側の木から、左側の木へ。

 それを何回も繰り返し、30分ほどかけて、なんとか僕がくぐれるくらいの道が完成した。


「ただ、この糸って使えるのかなぁ……」

(使うにしても、一度ほどいてからになりますね)

「結構強いから、使えるなら何かに使いたいんだけどね」

(帰ったらおば様か、キャロライン様に聞いてみては?)

「そうするしかないかな。ひとまずはインベントリの肥やしにしておこう」


 巻き取った枝ごと、ポイッとインベントリに放り込む。

 そうして片付けを終えた後、ふと気になって開いた壁の向こう側を見てみれば……またしても壁。

 小部屋みたいに区切られてはいるけど、進むとしたらまた壁を開くしかないかな。


「とりあえず、一度アルさん達と合流した方がいいかな」

(では、私がアル様にお伝えしてきます)

「うん。お願い」


 僕の返事を聞くと、シルフはその場から姿を消した。

 ひとまず皆を呼ぶのはシルフに任せるとして……次も同じ流れかなぁ。

 ならば、と僕は枝を集めることにした。




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名前:アキ

性別:女

称号:ユニーク<風の加護>


武器:草刈鎌

防具:ホワイトリボン

   <収穫の日ハーベスト>シリーズ・上

   <収穫の日ハーベスト>シリーズ・中

   <収穫の日ハーベスト>シリーズ・下

   <収穫の日ハーベスト>シリーズ・鞄

   トレッキングブーツ


スキル:<採取Lv.10→11><調薬Lv.13><戦闘採取術Lv.7→9><鑑定Lv.3><予見Lv.1>←New!


精霊:シルフ

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