第44話 やわらかなおおかみさん
天気は快晴、暑くもなく寒くもない。
僕の目の前は、通りを行き交う人や、道に沿うように幌を張ってお店を開いてる人達で大賑わいを見せている。
場所は街の南門付近……つまり、以前アルさんと待ち合わせた場所と近い場所に僕はいた。
「……アルさん達はまだ来てなさそうだね」
今回の指定場所は、以前に比べて門より少しだけ離れた場所。
人通りは多いけれど、多少余裕もあって周囲が開けた場所だ。
そこで僕は立ったまま、「まだ待ち合わせ時間よりは早いし……」と持ってきたアイテムを確認して時間を潰すことに。
ちなみにシルフはというと、僕にだけ見えるように半顕現状態で僕の周りをふわふわと浮いていた。
「だーれだっ」
「ひゃっ!?」
空中で指を動かしながら、インベントリを確認していた僕の視界が、急にまっくらになった。
声からしてリアさんなのは分かるんだけど、急にやられたからか変な声が出てしまった。
しかも、後ろから抱きつかれてるから、リアさんのやわらかいものとかがダイレクトに分かって、すごくあの……。
「んふふ~。アキちゃん可愛いなぁ」
「あ、あの、リアさん!」
「なーにー?」
僕の反応が面白からか、リアさんはより強く身体を密着させてくる。
「え、あ、あの!」
「なにかなー? ふふふ~」
「……リア。そろそろ放してやってくれ」
「んー。ま、仕方ない。アキちゃん、続きはまた今度ね」
アルさんの一言のおかげで、リアさんが腕を放してくれる。
その際になんだか不穏なことを言ってた気がするけれど、僕は聞かなかったことにして息を整え、後ろへと振り返った。
「あれ? リアさん……帽子とかかぶってました? ティキさんもなんだか少し、違うような……?」
振り返った先に見えたみんなの中で、リアさんとティキさんはその印象が大きく変わっていた。
リアさんは確か髪を括ってポニーテールにしてたはずだし、ティキさんも白い服なのは同じだけど、今みたいな派手な金糸の刺繍は施されてなかったはず。
「あ、これ? 格好いいでしょ? 街の中は危険もないし、服装を変えてるの。それに戦うと汚れちゃうしね」
「それだと、ティキさんの服は今の方が豪華なような……」
「私は魔法特性上、神に仕える神職ということになっていますので……。修行の一環として冒険に行くよう、魔法を教えてくださっている神官様の言いつけがありますので」
「要は、街の外でも神職として振る舞い、精神を鍛えるってことらしいわ」
な、なるほど……。
確かに僕も、街の外に出るときは服を変えるし……そんな感じかな?
というか、そろそろ外用の装備を買った方がいい気がする。
そんな思いがどうやら口から漏れていたらしく、今度リアさんがオススメのお店を教えてくれることになった。
「んじゃ、そろそろ行こうぜ」
「ああ、そうだな。戦いに勝ったとしても、門が閉まっていた……では負けたようなものだからな」
そう、ジンさんの提案を受けたアルさんが、僕へとパーティーの加入要請を飛ばしてくる。
前回と同じようにそれを承諾すれば、みんなのHPゲージが僕の視界の端に現れた。
「っと、先にこれを」
みんなが歩き出す前に、僕はインベントリから袋を4つ取り出し、それを1人1個ずつ渡していく。
それぞれの持ち場に合わせてポーション類を詰め合わせた革袋だ。
前衛のアルさん、ジンさんには喉ごしがマシな[最下級ポーション(良)]を多めに、一応[下級ポーション(良)]も入れてあるので、余裕があればそっちも飲めるだろう。
後衛のリアさん、ティキさんには両方を同じ数ずつ。
アルさん達に比べて少量ではあるけれど、足りなければ僕が渡せば問題無いはず。
あと、使うことはないと思うけど……一応[薬草(粉末)]と水を入れた瓶を用意している。
いざとなったらこれを混ぜて、[最下級ポーション(即効性)]を作る事もできる。
ただ、準備に時間がかかるから、出番はないと思うんだけど。
「すまない。助かる」
「アキちゃん、ありがとうね」
「いえいえ。それと軟膏も渡しておきますので、ボスとの戦闘前に使ってください」
[薬草(軟膏)]は袋に入れずに、個別で渡していく。
こうすることで、別のタイミングで使うもの、という認識をしてもらいたかったからだ。
「よし、では行こうか」
アルさんの指示に各々声を上げて頷き、僕らは南門をくぐった。
◇
「よし、肉はこんなもんでいいだろ」
両断するように
ボスを呼び出すための肉集めも兼ねて、みんなの戦い方を見せてもらっていたのだ。
もちろん僕も数匹倒して見せたけれど、戦い慣れているみんなと比べると、やはり手間取っているのが自分でもよくわかる。
というか、アルさんは堅実に武器を構えて間合いを取ってから切り捨てているけれど、ジンさんはそんなことは全然せず……むしろ武器も使わずに蹴り飛ばしていた。
それに、リアさんも、まさかの土魔法で打ち上げちゃうし。
ティキさんは……うん、何もしてない。
まあ、神職だからしかたないかな?
「アキさん、すまないがそろそろ肉を焼いてもらってもいいだろうか?」
「あ、はい」
アルさんの指示に従って、インベントリに入れておいた携帯用コンロを取り出す。
これは、みんなと顔合わせをした日に、みんなでお金を出して買ったコンロだ。
最初はアルさんが、「これも報酬として渡そう」みたいに言ってたんだけど、さすがに貰いすぎになるってことで、説得してみんなで買うことにしたのだ。
まぁ、おばちゃんに携帯用コンロを買うって伝えたら、すごい値引きしてくれたんだけど……。
「お、腹の減る匂いがしてきたなぁ。アルよう、終わったら肉食いに行こうぜ」
「お前は……まあ、今回はいいだろう」
「よっしゃ!」
僕がコンロについて思い出している間に、肉が良い感じに焼けていたらしい。
しかし、ジンさん……見た目通りに肉が好きなんだ。
少し呆れたような顔を見せてるけど、断らないところをみるとアルさんも好きなんだろうなぁ……。
そんな風に2人の会話を聞きながら肉を焼き続け、3個目の肉から良い匂いが立ち上りだし時、遠くからなにかの獣の鳴き声が響いてきた。
「……来たわね」
「ああ、そうだな。みんな、急いで戦闘準備。軟膏を塗り忘れるなよ!」
アルさんはリアさんの言葉に頷くとすかさず指示を出す。
その指示に僕らは強く頷き、準備を進めて……全員が軟膏を塗り終わり、各々の武器に手をかけたところで、僕の視界に茶色の狼が現れた。
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