第6話 訓練

「そんじゃ、とりあえず道具を取りに行くか」


 そう言って、兵士のおじさんは門の中ではなく、違う方向へ歩いていく。


「あれ? 訓練所ってこの中ですよね?」

「あぁ、訓練所はここなんだが……。ここに武器は置いてても、<戦闘採取術>の道具は置いてないんだ」


 あぁ、なるほど……。

 本来武器じゃないからね、置いてなくても仕方ないね!

 そう納得して、おじさんの後を歩いていく。


「ほれ、着いたぞ」


 おじさんの言葉に顔を上げれば、目の前にはどこかで見たような建物。

 というかここ、おばちゃんの雑貨屋だ。


「アルジェの姐さん。ちょっと失礼するぜ」

「はいはい、いらっしゃい。……用件は採取用の道具かい?」


 おじさんに続いてお店に入った僕に気付いて、おばちゃんは用件が分かったみたいだ。


「さすが姐さん。その通りだ」

「おだてても何もでやしないよ。ほら、これを持っておいき」


 そう笑って、おばちゃんはカウンターの下から布袋を取り出して、おじさんに渡した。

 おじさんは袋の中身を確認してから、僕に渡してくる。

 受け取った袋はずっしりと重たく、中を見てみれば、採取用の草刈鎌やつるはし、それにノミや木槌が入っていた。

 たぶん、僕に訓練所を勧めた後で用意してたんだと思う。


「あ、あのおばちゃん、これ!」

「別にお金はいらないよ。私としては、あんたがじゃんじゃん素材を取ってきて、薬を作ってくれれば、楽できるからね。先行投資ってやつさ」

「で、でも……」

「いいから黙って受け取っときな」

「う……。ありがとう、ございます」


 おばちゃんの目力に負けて、僕はしぶしぶ頭を下げる。

 いつかきっとお返しをしなくては……。


「そんじゃ訓練所に戻ろう……、と言いたいところなんだが、普通の訓練とは違うからな。実践を兼ねて、街の外でやるか!」


 僕とおばちゃんのやり取りを見守っていたおじさんが、笑いながらそんな爆弾発言をしてくれる。


「ま、街の外って! 僕、まだスキルも戦い方も知らないんですよ!?」

「心配すんな! 誰だって最初は初めてだ! それにまずは魔物じゃなくて、草なんかを相手に振り方なんかを教えるさ!」

「え、えぇ……」


 助け船を求めておばちゃんの方を見ても、深く何度も頷くだけで、どうやら助けてくれそうもない。

 視界の端に浮くシルフも、あまりの急展開に苦笑いしかできないみたいだ。

 仕方ないと諦めて、僕は深くため息を吐くことしかできなかった。




 ところ変わって、訓練に選んだ場所は、門を出てから門沿いに東の方へ少し歩いた場所。

 木も少なく、視界が開けているという利点の他に、魔物が現れにくいという利点もあるらしい。

 そのためか、人もほとんど来なくて、背の高い草がいっぱい生えてるけど……。


「そんじゃ……、まずはこの中でも扱いやすい草刈鎌を教えるぞ。それ以外の武器は自分で考えて使えるようになってくれ!」

「えぇ!?」

「武器にしたって、基本は教えるが応用は戦いの中で、自分で身に付けるもんだろ?」

「そ、そうですけど……」

「よっし、そんじゃまずは草でも刈るか!」


 そう言って、おじさんは僕から草刈鎌を受け取って、腰を低く落とす。


「本来、草を刈るってのは片手じゃ難しい。鎌を持ってない方の手で草を固定して、鎌で根元を断つんだが……、戦闘中にそんなことをやってる余裕は無いからな」


 説明しながら見本を見せるように、おじさんは右手に持った鎌だけで草を断ってみせる。

 なるほど……、普通の採取と違うのは、片手だけで採取行動を取るからなのか……。


「ほい、やってみろ」


 おじさんから鎌を手渡され、試しに腰を落として一閃。

 でも、何度やってみても上手い事斬れない……。

 どうも、刃の部分が綺麗に当たってなくて、斬れてないみたいだ。


「腕を動かすよりも、手首で引っ掛けるようにするといい。あと、最初はゆっくり振って、振り方を覚えたほうが良いぞ」


 なかなか斬れず苦戦してる僕に、おじさんがアドバイスをくれる。

 ゆっくり、当たる位置を確認しながら……。


「お……?」


 なんだか、振りやすい体勢がある……?

 その体勢を意識して何度か振ってみれば、だんだん慣れてきたのか、意識しなくても振れるようになってきた。


「よっ!」


 声を出しつつ、目の前の草へ一閃。

 すると、さっきまで斬れてなかったのが嘘みたいに、スパッと真っ二つになってしまった。


「……斬れた……」

「よーし、振り方はわかったみたいだな」


 草の切り口を確認して、おじさんはOKを出してくれる。

 どうやら問題なく斬れていたみたいだ。


「しっかし、コツを掴むのが早いもんだ」

「そうなんです?」

「普通はこんなに簡単に斬れるもんじゃないぞ。スキルにしても、お前さんら外からの住民ってのは、簡単に習得していくが、なかなか習得できん俺らからすれば、羨ましいもんだ」


 なんでも、使うことはできても、スキルを持っているって人は少ないみたい。

 だから、こっちの世界の人からすれば、一種の目に見える才能、みたいなものらしい。


「おじさんは<戦闘採取術>のスキルを持ってるの?」

「おう、持ってるぞ! 俺は他にも<剣術>や<槍術>も持っててな、結構周りからは羨ましがられてるんだぜ」

「ほぇー……。全然見えない……」

「なんでだっ!?」


 そんな話をしながら草を刈ってると、いつの間にかスキル習得ができていたみたいだ。

 しかも気付いてなかった間に、<戦闘採取術>はレベルが2まで上がっていた。

 ただ、採取はしてないからか、<採取>の方は上がってなかったけど……。


「見た感じ、スキルの習得ができてたみたいだな」

「うん。気付くの遅れちゃったけど……」

「別にいいさ。そんじゃお待ちかねの魔物との実践といってみっか!」


 まったくもってお待ちかね、ではないんだけど……。

 でも、すこしだけ……、ホントに少しだけワクワクしちゃうのは、仕方ないよね?




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名前:アキ

性別:女

称号:ユニーク<風の加護>


武器:草刈鎌    ←NEW!!

防具:ホワイトリボン

   冒険者の服

   冒険者のパンツ

   冒険者の靴


スキル:<採取Lv.1><調薬Lv.1><戦闘採取術Lv.2> ←NEW!!


精霊:シルフ

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