第7話 初戦闘

 目の前で跳ねる、奇妙な物体。

 緑色のスライムに見えるソレは、頭から木の芽を生やしたまま、ぽよんぽよんと跳ねていた。


「あいつがアクアリーフって魔物だ。俺が知ってる限りじゃ、一番弱い魔物だな」

「魔物……なの……?」


 あの、緑色した奇妙な物体が……、魔物なの……?

 僕の膝くらいまでの大きさで、跳ねるように動いてるあれが……?


(魔物とは思えない可愛さですね……)


 そう、シルフの言う通り、可愛いのだ……。

 ぽんぽんと跳ねてたかと思うと、ゆっくり頭の芽を左右に振ってみたり……。

 ぐぅ……、可愛い……。


「……おじさん」

「だめだ」

「おじさん……、あれを倒すのは……」


 そう言いながらおじさんの方を見れば、おじさんは困ったような笑みを浮かべつつ首を横に振った。


「ダメだ。あいつは今のお前さんの相手にちょうどいい相手なんだ。……気持ちは分かるが」

「ちょうどいいって言ったって……」

「あいつには木の芽っていうわかりやすい弱点がある。そこと下の部分を切り離せば倒せる」


 説明を受けながらアクアリーフの方を見れば、警戒することもなく頭の芽を振りながら動いていた。

 確かに、さっきまでの草を刈る練習で、刈り取るのはある程度慣れたけど……。


「俺だって最初はあの警戒心のなさと、愛らしい動きに倒すのを止めようかと思ったが……」

「で、でしょ?」

「それでも、ちょうどいいことは確かなんだ。それにほら、なんかあっても俺が助けてやっから。ほれ、女は度胸ってやつだ、行ってこい!」


 そう言って、おじさんは僕の背中を軽く押す。

 自信満々に言ってるけど、女は度胸じゃなくて、男は度胸だし!

 いや、そりゃ僕も男だけど、今は女っていうか……!

 それに怖がってるんじゃなくて、可愛くて倒すのをためらってるだけだし……!


(アキ様……)


 僕の怒涛の思いこえに、シルフが苦笑いを見せる。

 いや、分かってるけど……、しょうがない……。


「やるかぁ……」


 そうと決まれば、まずは相手との距離を確認。

 んー……、大体5mくらい……?

 もう少し近づいて一気に振り抜くのが一番かな。

 そう思って、ゆっくり、ゆっくりと近づいていく。

 3mほどまで近づいても、アクアリーフは警戒するような素振りを見せない。

 気付いてない……んだろうなぁ……。

 その証拠に、さっきまでと変わらず、頭の上の芽が左右に揺れてる。

 ……かわいい。


(……アキ様)

(だ、大丈夫だよ!)


 いつもより少し低い声のシルフに慌ててつつ、僕は力を抜いて足を開く。

 緊張か、少し鼓動がうるさい……、こんなところまでリアリティがあるとは……。

 ゆっくりと息を吐き、呼吸を整える。

 そして、飛ぶように近づき……一気に振り抜く!


「ふっ!」


 何か触れたような感覚が一瞬だけ。

 反撃に備えて、すぐさま後ろを振り向けば……、そこには消えていくアクアリーフ。

 今の一撃でHPがなくなったのだろうか?

 そう思った直後、目の前に半透明のウィンドウが表示され、アイテムを入手したことがわかった。


「ほう、まさか最初から一発とはやるじゃねーか」

「上手くいって良かったです……」

「なんにせよ、これが戦闘ってやつだ。敵を倒せば素材は自動的に手に入る。ただ教えた<戦闘採取術>が発揮する武器で倒せば、やり方によっては良いもんが出るかもしれない。まぁ、戦い方や倒し方が制限される以上、なかなか思い通りにはいかんがな」


 その後、おじさんが例に挙げてくれたのは数種類の倒し方。

 アクアリーフのように、弱点だけを攻撃する倒し方や、特定の部位だけを攻撃するやり方。

 他にも、攻撃タイミングや順番が決まっているパターンなんかもあるみたいだ。


 聞けば聞くほど条件を探すのが難しそうだけど、見つけれれば珍しいアイテムも入手しやすくなるかもしれない。

 ……それよりも、武器の扱い方に慣れる方が先決だろうけど。


「そんじゃ、俺はここでお別れだ。そろそろ帰らんと他のやつに怒られるしな」

「あ、そうなんですね……。すいません、僕のために」

「いいってことよ。それに、自分で採って調薬ができるやつが増えれば俺たちも助かるしな!」


 そう言って、おじさんは笑う。

 うう……、がんばらないと……。


「あと、これはおじさんからの餞別だ。さっきのアクアリーフが落とす素材に[アクアリーフの蜜]ってのがあるんだが、草を溶かす成分が入ってるらしいぞ?」

「草を……溶かす……?」

「おう! だから最初はアクアリーフを倒していくと良い……と、まぁ餞別はここまでだ。後は自分で考えてくれ」

「あ、はい。ありがとうございます」


 街の方へと歩いて行くおじさんの背に、僕は頭を下げる。

 暖かい風が、僕の手を取ってくれるまで、僕は頭を下げたままだった。



「いい人でしたね」

「そうだね。戦い方以外にもいろんなことを教えてくれたし……。[アクアリーフの蜜]とか」

「では、この後も?」

「うん。やろうと思う」


 おじさんの言ってた『草を溶かす』ってこと。

 たぶん薬草なんかを溶かして、水に混ぜやすくするってことじゃないかな?

 つまり、僕の作った[最下級ポーション]より良いものが作れるかもしれない!

 なら、やってみるしかないよね!


「私もお手伝いできれば良いのですが……」

「んー……、シルフって確か攻撃はできないんだっけ?」

「そうですね。直接、危害を加えることはできません」


 ってことは、それ以外の事はできるってことかな?


「じゃあ、攻撃する以外の事をお願いできる?」

「はい! それでもよろしければ、お手伝いいたします!」

「それじゃ、次のアクアリーフの時に色々試してみよう!」


 ちょうど良いことに、すぐそこにいるみたいだしね?

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