第3話 初スキル

 契約をしたわけだし……、今日はもう少しログインしておこうかな……。

 でも、スキルもお金もないし、どうしようかなぁ……。


「でしたら、とりあえず雑貨屋さんに行ってみてはどうでしょう?」

「ん? 雑貨屋さん? あと声に出てた?」

「あ、いえ、声は出ていなかったのですが……。契約をして頂いたおかげで、ある程度の思念を感じることが出来るようになりましたの。もちろん完璧にというわけではないので、思念だけで会話されるのでしたら、語りかけるように心で思っていただければ……。あと、雑貨屋さんでしたら色々と置いてますので、見て楽しむこともできるかと」

「なるほど……、ちょっと試してみるね」


 えっと、語りかけるようにってことだから……。


(あーあー、これで聞こえるってことかな?)

「はい、大丈夫ですよ」

「なるほど……。契約ってすごいね……」

「そう、ですね……。あ、あとアキ様。普段、私はアキ様以外からは見えないように姿を消しておきます」

「ん? そうなの?」

「えぇ、今までアキ様以外で、私の存在に気付いた方はいなかったので……」


 そういえば、精霊との契約っていうのは、大体どんなゲームでもレアなイベントだったりするっけ……。

 それなら仕方ないかなぁ……。

 普段は声に出さずに会話するようにしないと……。


「とりあえず、雑貨屋さんに行ってみよっか」

「はいっ!」




「あ、また発見。結構生えてるね」


 今、僕たちは街の外の草原にいる。

 そこで腰を落としながら、目の前の草を抜いていた。


(そうですね。それにもう少しでお願いされた数も揃いそうです)

「まさか、こんなお願いされるとは思ってもなかったけどね……」

(私も驚きました……)


 僕としては、置かれてる品物の多さに圧倒されつつ、薬草を見てたりしてただけなんだけど……。

 いきなり、お店のおばちゃんに薬草の採取をお願い事されるとは……。


「よし、これで指定された数は揃った……かな?」

(アキ様、お疲れ様です)

「うん、シルフも探してくれてありがとう。おかげで早く集まったよ」


 僕の言葉に、少し照れたように笑うシルフを横目に地面に座って休む。

 抜いた薬草はインベントリの中にしまってと……。


「あ、スキルが増えてる……。<採取>か……」


 なんとなく開いた所持スキルの欄には、<採取Lv.1>の表記が増えていた。

 ホントに、行動次第でスキルが増えるんだなぁ……。


「これが、初めてのスキル……」

(おめでとうございます!)

「ん、ありがと!」


 笑顔で祝ってくれたシルフに、僕も笑顔で返し、身体を地面へと倒す。

 ちなみに、シルフとの契約はスキルじゃなくて、称号として<風の加護>が追加されていた。

 シルフに聞いてみたけど、シルフ自身初めての契約で、効果については知らないらしい。

 まぁ、加護って名前だし、悪いものではないと思うけど……。


(アキ様、もうすぐ日が落ちますよ?)


 シルフの声に慌てて閉じていた目を開くと、太陽が大分傾いていた。

 心地よい風にのんびりし過ぎてしまったみたいだ……。


「夜になるのはダメだよね。ちょっと急いで帰ろっか!」


 寝転がっていた身体を起こして、少しほぐす。

 街の門からはそんなに離れていないし、今から行けば問題ないはずだ。

 魔物に見つからないように気を付けながら、僕らは街の方へと駆け出した。


 ちなみに、あとから知ったことだけど、夜は魔物が凶暴化するみたいで、街の門を閉めてしまうらしい。

 つまり、あのまま帰らなければ街に入れず、外で野宿するしかなかったみたいだ。




 雑貨屋アルジェ。

 そこは、最初にログインした中央広場から伸びる大通りを、西に進んだ先の道沿いにあるお店だ。


「はい。おばちゃんお待たせ。頼まれてた薬草採ってきたよ」


 インベントリから薬草を取りだし、カウンターに置いていく。

 おばちゃんにお願いされた数は30束。

 うん、ちゃんと数は合ってる。


「おや、ちゃんと採ってこれたみたいだね。おかげで助かったよ」


 僕が薬草を置いたカウンター越しに座っていた、お母さんくらいの年齢の女性が小さく笑う。

 少しふっくらとしていて、優しそうな雰囲気の人だ。

 笑ったその動きで肩の上で赤い髪が揺れて、まるで炎の揺らめきみたいにも見えた。


「でも、どうしていきなり薬草が必要になったの?」

「今日、いきなり外からの住人が増えたからね……。薬が足りなくなりそうだったんだよ」

「そうなんだ……って、あれ? 薬草をってことは……、おばちゃんがこのお店のお薬を作ってるの?」

「あぁ、そうさ。うちの店で扱ってる薬なら、ほとんど私が作ってるよ。もし興味があるなら見ていくかい?」

「うん!」


 僕の返事を聞いてから、おばちゃんは薬草を抱え込み、お店の奥の扉を開けて歩いていく。

 僕は遅れないように、おばちゃんの後を追いかけた。




 扉を抜けた先は、何の変哲もない台所だった。

 鈍い金色の鉄の鍋に、包丁のようなナイフ。

 木でできたまな板など、薬作りと言われなければ、ただの料理道具にしか見えないものばかりが、その部屋には置かれていた。


「あんたみたいな若い子が、薬作りに興味があるってのは珍しいねぇ……」


 呟くように話しながら、おばちゃんは鍋に水を入れ、火にかけていく。

 そして流れるような動きで薬草を刻み、温まったお湯の中に入れていく。


「これが、お薬の作り方……なんですか?」


 場所や道具も相まって、どちらかというと料理のような……。

 そんな僕の想いを知ってか、おばちゃんは笑いつつも頷いてくれる。


「そうさね。これが薬作りさ」

「でも、お湯に刻んだ薬草を入れただけ……ですよね……?」

「あぁ、そうさ。後は、水の色が変わってから薬草を取りだして、冷ましてから水を瓶に移し替えたら終わりさ」


 そう言って、数分かけて作ったお薬を僕に渡してくる。


[最下級ポーション:10秒かけてHPが15%回復

最も回復量の少ないポーション]


「最下級……」

「そうさ、これは店で一番安く売ってるポーションって薬さ。ポーションにしても、もっとちゃんとしたやつは、もっと色んなことをしないといけないさね。でもそれは、自分で見つけるものさ」

「自分で……。僕が、ですか……?」

「そうさね。興味があるなら、本を読んだりして参考にするのも手だろうし、人に聞いて見たりしてみるのも手だろうさ。もし作ってみるって言うなら、あんたが工房を持つまではうちの台所を貸したげるからさ」


 そう、言うだけ言って、おばちゃんは台所から出ていく。


「おばちゃん……」


 やるとも言ってないけれど、そもそもこのアバターで続けれるのかもわからないけれど……。

 今やれるところまで、やってみるのもいいのかもしれない。


「アキ様……」

「大丈夫。今日、やれるだけやってみよう。もちろん、この先どうなるかわからないけれど……」

「アキ様……! 私も、出来るだけお手伝いいたします! 一緒にがんばりましょう!」


 そんなシルフの言葉を受けながら、僕は薬草の束とナイフに手を伸ばした。




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名前:アキ

性別:女

称号:ユニーク<風の加護> ←NEW!!


武器:なし

防具:ホワイトリボン

   冒険者の服

   冒険者のパンツ

   冒険者の靴


スキル:<採取Lv.1> ←NEW!!


精霊:シルフ

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