第2話後編 出会い

「ここで、合ってるのかな……?」


 不思議な声の気配に導かれるまま、広場から少し離れた路地へと入る。

 そのまま、道に沿って歩いていくと、少し開けた場所にたどり着いた。

 今はまだ明るい時間だから大丈夫だけど、夜になれば怖い人達が集まってきそうな場所だ。


   えぇ、合ってますよ。大正解です。


 僕の声に反応するように、また脳内で声が響く。

 その瞬間、思わず目を閉じてしまうほどの強い風が、僕の前で吹き荒れた。


 伸びた髪が舞い、横髪が顔を叩く。

 それも、ほんの数秒ほどで落ち着き、僕はゆっくりと目を開いた。


「はじめまして。風の精霊、シルフと申します」


 僕の目の前に現れたのは、今の僕より少しだけ小さい女の子。

 肌は薄い緑色で、透き通っているのか、彼女の体を通して背後の景色が見える。

 髪も肌に近い緑色で、ウェーブのかかった髪は肩を少し超えてるみたいだけど、毛先がハネ気味で、正確な長さはわからない。

 着ている白いワンピースが良く似合ってる反面、少し透けて見えるその服に、僕は思わず目を逸らした。


「ぁ、えっと……。僕は、アキって言います。 ……って、精霊!?」


 僕の聞き間違いでなければ、この女の子は精霊って……。

 しかもシルフって、あのシルフ……!?


「はい。風の精霊、シルフです。私の声が聞こえたみたいでしたので、こうしてお話をさせていただくことができました」


 なんでも、シルフさんが言うには、スキルを持っている人は精霊の声や姿が捉えにくくなるらしい。

 ただ、絶対見えないというわけではなくて、スキルを持っていても精霊の声や姿を感じる人はいるらしい。


「なるほど……。つまり、結局はその人と、精霊との相性がいいかどうか、みたいなものかな……?」

「そう、ですね……。多分、それで合ってるかと思います」


 そう言って、シルフさんは照れたように、笑った。


「それで……。シルフさん……は、なんのために僕の前に現れてくれたの?」

「それは……」


 僕の言葉に、シルフさんは言いにくそうに、顔を俯ける。

 そういえば、シルフってよく聞く話だと、悪戯好きの精霊なんだったっけ?

 もしかすると、僕の前に姿を見せたのも悪戯のためかも……?


「ねぇ、シルフさん……。まさか僕に、悪戯するためとかって言わないよね……?」

「えっ!?」

「いや、だって……。僕がよく聞く話だと、シルフって悪戯好きの精霊って……」

「そ、そんなことしません!」


 焦ったように手を振るシルフさんは、注意して見ても、嘘をついてるようには見えない。

 これは、僕がちょっと警戒しすぎたのかも?


「その、アキ様……。もしよろしければ、私と契約を結んではいただけませんか……?」

「契約?」

「はい。アキ様と、私のマナを結び付け、繋がりを確かなものにする行為です」


 シルフさんが言うには、契約を結ぶことで、僕が新しくスキルを手に入れても、シルフの声や姿が捉えれるようになるらしい。

 また、シルフさんに風を操ってもらうことが出来るようになるため、魔法が使えない僕でも、疑似的に魔法を使うことができようになるらしい。


「ってことは、シルフに魔物を倒してもらうこともできるの?」

「いえ……、それはできないんです。危害を加えるような使い方はできなくて……。間接的になら可能ですが……」


 つまり、直接風の力で倒すことはできないけど、石をぶつけるとかそういった方法なら可能ってことかな……?


「んー……、でもそれだけだと、シルフさんのメリットが無いよね……?」


 美味しい話には棘がある。

 さっきシルフさんは、悪戯に関しては否定してくれたけど……。


「私のメリットとしては、消滅を防げるというのと……。そうですね……、アキ様に付いていくことが、面白そう……だからでしょうか?」

「僕に聞かれても……。でも、消滅って……?」


 詳しく聞けば、どうやら精霊というのは、この世界のマナというものを使うことで、存在できているみたい。

 けど、魔物が増えると世界のマナが減ってしまうらしく、存在することが難しくなるらしい。

 だから、こうやって相性の良い人と契約を結び、マナをもらうことで存在の消滅を防ぐことができるらしい。


「でも、僕は……」

「アキ、様……?」

「あのね、シルフさん……。僕、実は……」


 僕は、ゆっくりとシルフさんにわかるように、言葉を置き換えながら、アバターが違うこと、状況によっては今日以降はログインしなくなるかもしれないことを伝えていく。

 それを聞いたシルフさんは、少しだけ目を閉じた後、目を開いて僕に近づいて、手を取った。


「アキ様、それでも……いいですよ。私は、あなたと一緒がいいのです」

「シルフさん……」

「たとえ、アキ様が明日いなくなってしまったとしても、私はあなたと契約したことをきっと、大事にいたします。ですから……、私と契約、していただけませんか?」


 僕の目線より少し低い位置から、見上げるようにシルフさんが見つめてくる。

 なんでシルフさんが、ここまで僕を求めてくれるのかはわからない。

 けど、僕は最初、ここに向かう時に思ったはずだ。

 この声は、逃しちゃダメだって!


「シルフさん。本当に、僕でいいなら……、契約、してくれませんか?」

「……はいっ! アキ様、ありがとうございます!」


 シルフさんは、そう言って嬉しそうに笑い、僕の手に顔を近づけていく。

 一瞬だけ触れる程度の、軽いキス。

 シルフさんが僕の手から唇を離すと、僕の手を中心に、風が吹きあがるように緑色の光が溢れていく。

 柔らかくも幻想的な光が収まると、そこには緑色の魔法陣が描かれていた。


「これで、契約完了です」

「そっか……。なんだか、すごかったね……」

「はい、綺麗でした……」


 思い出すように右手の甲の魔法陣を見ていると、なんだか恥ずかしくなってくる。

 そういえば、今、キスされたよね!?


「そういえば、アキ様」

「ひゃ、ひゃい!?」

「ん……? どうかしました?」

「いや、なんでもないよ! し、シルフさんこそ、なにかあった?」

「あ、それです! アキ様、シルフ、とお呼びください。私は、あなたの精霊なのですから」


 慌ててごまかした僕に対して、シルフさんはそんなことを言ってくる。


「ぇ、え?」

「だから、私のことは、シルフ、と」

「し、シルフ?」

「はい、アキ様」


 全然怖くないけど、僕を睨んでいたシルフの顔が、一瞬で笑顔に変わる。

 それがちょっと面白くて、思わず吹き出してしまった。


「あ、アキ様!?」

「ごめんごめん。少しの間だけかもしれないけれど……、これからよろしくね。シルフ」


 少し恥ずかしさからか、怒ったように声を上げたシルフに、僕は声を返す。

 その言葉を聞いて、シルフは拗ねた顔を見せながら、


「こちらこそ、よろしくお願いします。アキ様」


 と、答えてくれた。




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名前:アキ

性別:女


武器:なし

防具:ホワイトリボン

   冒険者の服

   冒険者のパンツ

   冒険者の靴


精霊:シルフ  ←NEW!!

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