第4話 調薬?

 とりあえずは、[最下級ポーション]を目標に作ってみよう。

 おばちゃんの手順を真似すれば、なんとかなるだろうし……。


「えっと……、まずは鍋に水を入れて、火にかける。その間に薬草の束を刻んで……」


 声に出しながら、鉄の鍋に水を入れて火にかける。

 使ってる鍋は、現実でもよく見る金色っぽい鍋だ。

 おばちゃんが結構長いこと使ってるのか、底の方が少し焦げてたり、傷が入ってたり……。


 鍋を火にかけたら、その横で薬草を刻んでいく。

 ザクザクっと小気味良い音を立てながら、ある程度の大きさで。

 数束刻んだところで、それを温まったお湯の中に入れて、浸るようにお玉を使って調整っと。


「これで大丈夫なはずだけど……」

「そうですね……」


 5分ほどすると、ちょっとずつ水の色が変わり始めた。

 薬草からにじみ出てきてるのが見えるみたいに、少しずつ、少しずつ色が緑色になっていく。

 水全体が満遍なく緑色になったところで火を止めて、シルフに鍋を冷ましてもらう。

 さすが風の精霊……、細かい注文でも簡単にやってくれるとは……。

 程よく冷えたところで、中身を空のガラス瓶に移していけば、ちょうど10本の瓶をいっぱいにしたところで、鍋の中身がなくなった。


「うん! ちゃんと[最下級ポーション]になってる。成功だね」


 手に取って確認すれば、ちゃんと[最下級ポーション]という名前の消費アイテムになっていた。

 消費アイテムは、自分の所有物になれば詳細が分かる。

 素材アイテムとかはわかんないんだけどね……。

 たぶん、それを知るためのスキルなんかがあるんじゃないかな?


「アキ様、おめでとうございます!」

「ん、ありがとう。シルフも手伝ってくれて、助かったよ」

「そ、そんな……。私はアキ様のお役に立てればそれで……」


 シルフはそう言いながらも、少し赤みの増した頬に手を当てて、恥ずかしそうに身をよじる。

 嬉しそうなシルフの横で、僕は作成した[最下級ポーション]へと目を落とした。


「……最下級、か……」

「アキ様?」

「ん? あ、いや……、何がどうってわけじゃないんだけど、最下級かーって思って」

「こちらが最下級ということは、先ほどおば様も言われてたように、さらに上のポーションがあるということですよね?」

「うん。そうだね……。どうやって作るのかは、わからないけど」


 水と薬草だけ、なのか、それとももっと別の素材が必要なのか、全く分からないけれど。


「とりあえず、今はお手上げ、だね」

「……ふふ。でも、アキ様はそう思ってなさそうですね?」


 僕の声があまり暗くなかったのに気付いたのか、シルフは少し笑う。

 バレていたことにちょっと驚きつつ、僕も笑ってそれを誤魔化した。


「多分、だけどね。おばちゃんは一番初歩の作り方を教えてくれただけ、なんだと思う。だから、作り方を変えてみたら、最下級でもより良いものが作れるかもしれない」


 例えば……、薬草を粉末にしてから水に入れる、とか?


「でもそれだと、すり鉢とかが必要かなぁ……」

「おば様はもってないでしょうか……? お料理にも使われるはずですし、持っていてもおかしくないかと思います」

「それもそうだね、聞いてみようか」




「すり鉢? それなら作業台の後ろの棚にあるから、自由に使ったらいいよ!」


 台所からお店の方に行けば、おばちゃんはさっきまでと変わらずカウンター後ろの椅子に座っていた。

 そんなおばちゃんに近づいて、すり鉢について聞いてみたら、おばちゃんは少し笑いながら、すり鉢の場所を教えてくれた。


「ありがとうございます。でも、いいんですか? 僕が台所をお借りしてたら、おばちゃん、作業できないですよね……?」

「なぁに、全然構わないよ。薬を作れる人間が多くなった方が、後々助かるからね。それに私は私で、違うものを作ってるのさ」


 おばちゃんは、そう言いながら手に乗せた白くて丸い玉を見せてくれる。


「これは……? 糸……?」

「そう、糸の玉さ。私の知り合いが作ってる花から採れてね、こうして糸を作って、そこから玉のように纏めていってるのさ」

「へぇ……」

「この糸玉はね、何も服に使うだけじゃないよ。鎧の編み込みだったり、防具に縫い付けるクッションの代わりにも使ったりするからね。何気にうちの人気商品さ」


 話しながらも、おばちゃんは糸をゆっくりと紡いでいく。

 その糸は均一の太さで、とても綺麗だ……。


(すごい、ですね……)


 シルフもそれに気づいたんだろう、僕の横で紡がれていく糸に目を奪われているみたいだ。

 現実の世界では、機械で紡いでいることもあり、均一で紡ぐのはそこまで難しいことじゃないけれど、手作業でとなるとその難易度は桁違いだと思う。

 気付けば僕自身も、ゆっくりと紡がれていく糸と、それを正確に手繰るおばちゃんの手から、目が離せなくなっていた。


「ふふ……。あぁそうだ、あんたさっき外で魔物と戦ったかい?」


 おばちゃんの手元を凝視していると、それがおかしかったのかおばちゃんは少し笑ってから、話題を変える。


「いえ、まだ一度も……。薬草を取ってきたところにはいなかったので」

「そうかい。あんたも一応外からの住民なんだし、一度くらいは戦ってみたらどうだい?」

「あー、うん……」

「なんだい、そんな声出して。心配しなくても、この辺の魔物くらいなら気を付けてれば、そこまで危険じゃないよ」

「それはありがたいんですけど……。実は僕、武器もなにも持ってなくて……」


 つまり、戦おうにも素手で戦うしか方法がない。

 現実で何か武道をやってる人ならまだしも、僕じゃさすがに無理かなぁ……。


「おや、外からの住民にしては珍しいねぇ……。だったら、この町の北側に訓練所があるのは知ってるかい?」

「それは、はい」


 GMの人ツェンさんへの相談が終わった後に、街を見て回って、北側にあったのを覚えてる。

 ただ、やりたいと思う武器も魔法もなかったんだよね……。


「そこの兵士に、アルジェの紹介で来たって伝えたらいいさ。そうすりゃ、みんな訓練を手伝ってくれるよ」

「アルジェって……、おばちゃんの名前?」

「おや、言ってなかったかねぇ……。ここ、アルジェの雑貨屋の店主、アルジェリア・ローフと言えば、この街では大体みんな知ってるよ」


 おばちゃんこと、アルジェリアさんは大きな胸を、より強調するように張って、笑う。

 その威圧感に、思わず少しだけ後ずさってしまった。


「ぁ、えっと……。僕はアキって言います。自己紹介が遅れてごめんなさい……。えっとアルジェリアさん?」

「今まで通り、おばちゃん、でいいよ。その方があんたも楽だろう?」

「あ、はい……。ありがとうございます」

「まぁ、とりあえず今日はもう遅いから、明日にでも訓練所に行っておいで。みんな精一杯手伝ってくれるはずさ」


 たじろいでる僕に対して、おばちゃんは笑顔でそんなことを言ってくる。

 ただ……、笑顔なんだけど、妙な威圧感もあるからか……、逆らってはいけないような……そんな気が、とてもした。

 実際、シルフなんて、怖がっているのか……見えないはずなのにおばちゃんから隠れるように、僕の後ろで小さくなってたし……。


 それに、明日……か……。

 そういえばもう、そんな時間なんだ……。

 けれど、そんな思いを悟られないように、少し笑いながら僕は口を開く。


「それじゃ、すり鉢はまたにして、今度行ってみます」

「あぁ、そうしたらいいさ。訓練と言っても、気を付けるんだよ」

「はい、ありがとうございます! では、また!」


 挨拶をし、頭を下げ、雑貨屋から外へ出る。

 そして、お店から少し離れたところで立ち止まり、路地に入って……シルフの方へ体を向けた。

 後ろをついてきていたシルフは、突然振り向いた僕に驚くこともせず、僕の目を見つめ返してくる。

 きっと、僕が言おうとしていることを、シルフも分かっているからだろう。

 夜だからってだけじゃないってわかるくらい、少し表情が暗く見えるから。


「アキ……さま……」

「……シルフ」

「元々、そういったお話、でしたから……。アキ様が気にする必要なんて、ないですよ」

「それでも……、ごめん」


 元々、今日ログアウトしたらサポートへ連絡を入れるつもりだった。

 そのつもりだと、言葉を変えながらも、契約の時に言ってはいた。

 けれどそれはつまり、シルフにとってはこれでお別れになるかもしれないと、いう事でもある。

 だから、僕は……ごめんの意味を込めて、シルフへと頭を下げた。


「アキ様、今日はありがとうございました」

「え?」


 悲しませてしまう、泣かせてしまう、と思っていた僕の上から、シルフの声が聞こえた。

 その内容が一瞬理解できなくて、思わず頭を上げれば、そこには笑顔のシルフがいて……。


「アキ様のおかげで、今日はいろんなことがありました。初めての契約、一緒に薬草を探したこと、お薬の調合……。こんなに話して、笑ったのも、初めてのことでした。だからアキ様、ありがとうございました。私は、アキ様に出会えて、とても良かったです」

「シルフ……」

「それに、最初に私も言いましたよね? たとえ明日、あなたがいなくなってしまったとしても、私はあなたと契約したことをきっと大事にします、って。だから、大丈夫です」

「……そっか……」


 それ以上は何も言えなくて、僕はふっと力を抜いた

 シルフはそんな僕にゆっくりと近づくと、契約が刻まれた右手を取って、小さくキスをする。

 すると、あの時と同じように風が吹きあがり……、収まった時には、そこから印は消えていた。


「アキ様、もしまた出会うことができたら……」

「その時は、僕からシルフに言うよ」


 シルフの言葉を遮って、今にも消えてしまいそうな彼女に笑いかける。

 それでシルフは分かってくれたのか、小さく頷いて僕の視界から消えていく。


 もしまた会えたら――。


 そう、心で呟いて、僕はログアウトのボタンを押した。




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名前:アキ

性別:女

称号:なし ←DELETE!!


武器:なし

防具:ホワイトリボン

   冒険者の服

   冒険者のパンツ

   冒険者の靴


スキル:<採取Lv.1><調薬Lv.1> ←NEW!!


精霊:なし ←DELETE!!

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