第26話 Snow to Asia
翌日からマホナは酎ハイを二人分と煙草を二箱持って出勤前に部屋に来た。浜にいた時にはこんなに吸っていた覚えはなかった。彼女は寝転がりながら映画や音楽の話しをするのが好きだった。そして、探求心が足りないとでも言いうように、知らない物が多すぎると度々言った。その言いぐさは詰まる所、既存の創作物を棚に上げ、男の強みはそれらを研究できることである、ということを暗示していた。おれは真面目に頷きながら、そんなことは女とオカマがやればいいという対極の考えを持ち、自分の創造性に根拠のない自信を持っていた。彼女は、自分の好きな物ごとを言うために先に質問するのがやり口だった。おれが、聞かれるがまま、思い付くことを返す、とそれが彼女の求めている答えに繋がっていった。彼女はおれの知ることにだったら何だって答えられた。彼女には無限の知識があり、いつだって話しは偶然に進んでいるかのように思われた。
「ほら、これ似合うと思って。二個買ったから一個あげる」
「おれってこういうイメージなんだ」
「だってあなたもヒッピーでしょ、ありがたくもらっておきなさい、マホナが男のために何かを買うなんて、普通はあり得ないことなのよ、友達に話したって誰も信じてくれないと思うわ」
「明日は雪かな」
マホナがくれたプレゼントは東南アジア製のクビから下げることができる麻の小銭入れで色違いのお揃いだった。アジア雑貨が買える場所は一件しかなかったから、どこで買ったかはわかっていた。
「その代わりそのTシャツちょうだい、ずっと可愛いと思っていたの」
「だめだよこれ中古で三千円もしたから」
「あなたってすごくけちなのね。じゃあ、その代わり、マホナのためにギターを弾いて」
「下手くそだよ」
「そういうふうに言う人嫌い、いいから早く弾きなさい」
中学の時に友達と競って練習したビーズのイントロを弾いた。何年経っても弾けるのはこれだけだった。
「ギターの音だけで濡れちゃうの」
「このワンピースも同じアジアの店で買ったやつでしょ?」
「あなたの彼女は幸せね」
「全部脱いで裸を見せて」
「やだ! 太っているって言ったじゃない」
同じような一週間と少しが過ぎた。コンドームが切れてそのままの日があって、それ以降着けなくなった。そして、日に日に貧弱になっていった。
「レオとは二ヶ月ぶっ続けで汗だくになってやったの。デカチンが自慢なの」
「今日はやめよう」
「なんで、やだ」
マホナはまたがって腰を振った。
「今日調べて出来ていたら彼の子で、次出来ていたらあなたの子よ、ちゃんと責任とってよね」
「おれと結婚する?」
「冗談でしょ? 大金を請求するのよ」
「こわっ、マホナが腰離さないんだよ」
「あははは、そっかそっか」マホナ過ぎるほど笑って出ていった。
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