第7話 Jiyuu to Comedy

 ある時、おれは一人で受け身をして遊んでいた。要はでんぐり返しだ。それで体感することができた、この体だってこの世界だって自由に使っていいのだ、と。

「見てて」

 背後からレオがやってきて、受け身から連続で立ち上がろうとした。しかし、砂は衝撃を吸収し、彼を捕えて離さなかった。

 すると女の笑い声。やっぱり近くにマホナがいた。レオを笑いながらおれの背後から現れた。

「ここじゃあ立つのは難しいね」とおれはレオに言った。

「簡単」

 レオは三度目で無理やり力ずく立ち上がった。楽しくなって何度も一緒になってやった。見ていたマホナが一番嬉しそうだった。

「柔道やっていたの?」マホナが歩み寄って言った。

「少しね。お父さんの影響で」おれは一歩下がって答えた。

「レオもやっていたわよね」

「僕は全部やった」とレオ。

「ゼンブって何?」とおれ。

「柔道と剣道と極真、格闘技全部黒帯」

 嘘くさかったが、そんなことどうでもよかった。マホナが離れようとした、その瞬間、レオは海に向かって叫んだ、

「僕のチンコは、腐って、るううううううううう!」

 マホナが振り返った。

「何で?」とおれは大げさに言った。

「マホナから性病をもらった」

「バカな事言わないで他の女のせいでしょ!」

 マホナが怒った姿はいつだって演技にしか見えない、アメリカのコメディータッチのそれ。内心喜んでいるみたいだ。

「だからマホナとしかやってないって」

「いやだ、来ないでったら!」

 レオは、逃げるマホナを走って追いかけた。おれは可笑しくなって、口に含んだ麦茶を吹き出した。それを見たレオが爆笑した。不慣れな気味の悪い笑い方だった。おれたち三人は顔を見合わせて笑った。

 レオは口数と表情が少なかったが、気持ちを汲んだユーモアを持っていて、マホナの突拍子のない会話に素早く反応することもできる。二人のテンポ良い会話に強い繋がりが見て取れた。

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