第522話 ◆天使と入浴

◆天使と入浴



あの~ ・・・  なんでここで服を脱いでいるんですか?


まだ力が抜けて立ち上がれないユカが、ニコニコしながら近づいて来るヴォルルに蚊の鳴くような小さな声で尋ねる。


だからこれからあなたの歓迎会をするのよ~。


え~っと・・・  あたし的には全然意味が分からないんですけどー。


あらあら  あなた自分が今どうなっているか分かっていないの?


えっ?


あなた、メイアちゃんの涎でべちょべちょよ。


ほぇ?


ユカは、そういえばさっき頭からドラゴンの涎を浴びたことを思い出し、クンクンと自分の体のあちこちを嗅ぎまわった。


意外と臭くない。 ってか全然臭わなーい!


うふふ  これだから人間ってダメなのよ。  あたしの嗅覚だと、あなたはドラゴンの涎の臭いがプンプンしてるのよ。


えーーー ヤダ。  それって本当ですか?


本当よ~。 だからお風呂に入りながら歓迎会をしようって言ってるのよ~。


なるほど。 ユカはヴォルルが服を脱いでいる意味を理解した。


でも、どうしてココで?


あ゛ーーー  もう面倒くさいわね。  そう言ってヴォルルが指をパチンッと鳴らした途端。


えっ、えええーーー!


ユカの目の前の景色が一瞬で変わり、ローマ風呂のような巨大な浴場が現れた。


しかも、ユカはヴォルルの魔法によってもう裸になっている。


あら、やっぱりセレネちゃんと比べるとぜんぜん小さいわね。


でも大丈夫よ。 あたしが調合した薬を塗ってマッサージすれば、あっという間にサイズアップするからね。


ほんとうですか?  ユカは陸上部だったので腹筋は自慢できるが、おっぱいは小学生にも負ける。


ええ、もちろんよ~。 ホウニュウ草の根から取ったエキスを一週間も煮詰めて作った薬だもの。


豊乳という響きがユカの心をノックする。


例え夢だとしても、これはこれで嬉しいかもー!  ←ユカは自分がまだ夢を見ていると思っている?


それにしても凄く広いお風呂ですね。  えーっと・・・


ヴォルルよ! 


あっ ヴォルルさんっていうんですね。  あたしはユカっていいます。


そう・・ あなたは、ユカちゃんっていうのね。


それじゃあ、さっそく温泉を楽しみましょうか♪


ヴォルルに促されてユカは右足からプールのような浴槽にジャブジャブと入っていく。


浴場内は、大量のお湯で湯気がもうもうとして視界が悪い。


またここの浴槽は、奥に進むに連れて少しずつ深くなっているようだ。


やはり肩までお湯に浸かりたいので、ユカは座って肩がお湯に隠れる深さまで、そろりそろりと進んでいく。



ゴッ


キャッ


バッシャーン


突然何かに躓いてユカは頭から湯舟にダイブしてしまう。


ガバッ ザザッーー  プハッ


なに? なに?  なんかいるのーーー?


ユカが起き上がって振り向くと・・・


湯気の中に、ぼや~と二つの人影が浮かびあがる。


目を凝らして見れば、何やら頭の上には金色に光る輪がある。


ごめんなさい。 だいじょうぶ・・・  キャー 男ーーーー!


そんな・・・ いくら胸がないからって男と間違えるなんて酷い・・


え?  あなたは女の子なんですか?


そう言われてみればショートヘアで髪が濡れた自分は湯気の中では男に見えなくはない。


シク シク シク


ああっ  神に仕える身でありながら、かよわき女性に悲しみを与えてしまった私の罪は大変重いですわ。


そうよ サリエル!  いくら胸がぺったんこでもよくよく見ればアレがついていないことは分かるでしょうに。


だってラグエル、さっきは、おへそから下が水面下でしたわ。 (そう、この浴槽は奥に行くほど深くなっているのだ)


あらあら、あなたたち。 まだ入っていたの?


あっ ヴォルルさま。  この度はお招きいただきありがとうございます。


いいのよ。 あたしひとりでこんなお風呂を使ってるなんてもったいないもの。


そうだ、ヴォルルさま。 こちらの方は?


さっき、メイアちゃんが連れて来たのよ。  ユカちゃんっていうの。


メイアさまがですか?  サリエルが不思議そうな顔でヴォルルを見る。


この方は人間ですよね?  ラグエルが横から確認してくる。


そうみたい。 着てた服もセレネちゃんと同じだったしね。


ヴォルルざん・・・ 早くマッサージしてぐだざい~ぃ ・・・


ユカは男と間違われたショックから立ち直れずにヴォルルに懇願する。



ああっ 主よ!  どうか罪深きサリエルをお許しくださいませ。



***

オマケ


ちょっと!  もうほんとにあたしの出番はないの?  ←セレネ


はい。 当面はありません。


ぞんなぁ・・・


いいじゃないですか。  せっかくピチピチの後輩が来たんですから、おとなしくしててくださいよ。


いや、絶対絡んでやる!

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