第521話 ◆ユカ別の意味で再びピンチになる
◆ユカ別の意味で再びピンチになる
その古城がいつからそこに存在していたのかは、もう誰ひとりとして知る者はいない。
ただそこには今、あの最強の魔女の分身のうちの一人が住んでいることは事実である。
魔女とは言っても本物の魔女というわけではない。 なぜならこの世界に棲むもののうち、魔法が使える者はそうは珍しくないからだ。
だから厳密に言えば、魔法が使える最強の女というのが正解かもしれない。
その最強の女の名は、ヴォルルという。 そして彼女の分身は、この世界中に200人が存在している。
分身なので各々のパワーは大元である本人の1/10だ。 なので人は彼女達のことをヴォルル1/10と呼ぶ。
この200人の分身はテレパスネットワークにより、多少のタイムラグはあるものの情報が常に共有されている。
よって、分身の200人はヴォルルというひとりでもあるのだ。
***
メイアは外壁が蔦に覆われた古城へと真っ直ぐに降下を始めていた。
城には大きな塔が二つと小さな塔が三つあるが、大きな塔の間には比較的大きな広場のようなものがある。
メイアはそこに降り立つつもりなのだ。
そしてその広場にはすでに人影が見えている。 むろんそれは城主であるヴォルル1/10に他ならない。
広場の上に到達したメイアはゆっくりと二つの塔の外周を旋回しながら更に降下を始めた。
そして最後に降下のスピードをゆるめてユカを広場にそっと立たせ、自分はその後大きく2度羽ばたいて、再び5mほど上昇してからふわりと着地した。
メイアちゃん、おひさ~♪ そう言いながら、ヴォルル1/10が小走りに近づいて来る。
その声にユカが正気を取り戻し、ビクッとする。
そして、目の前のメイア(ドラゴン姿)を見上げて一瞬で固まった。
な、なによ! これってさっきの恐竜よりも全然大きいじゃない! もうダメ。 あたしって結局は食べられる運命だったのね。
そしてユカはこの時、さっき頭に垂れてきた液体が、このドラゴンの涎だったことを理解した。
あ゛ーーー どうせ食べられて死ぬんだったらサッカー部の篠田先輩に告白しておけばよかったなー・・・
そう思ったら全身の力が抜け、その場にへなへなと座り込んでしまった。
ボンッ
アニメの中でしか聞いたことがないような音と共にメイアがいつもの幼女の姿に変化する。
いまでは、こっちの姿でいる方が自然であるし、何よりも動きやすい。
あらあら、メイアちゃん 超カワイイ~。 もう、うち子になっちゃいなさいよー。
ヴォルルは小さくなったメイアに頬ずりをしながらひょいと抱き上げた。
そしてユカはと言うと、女子がよくやる両足の間にお尻を落とす、あの座り方のままで呆けていた。
もはや現実逃避モードに入っているのであろう。
あのね・・ ヴォルル。 あの女の子を預かって。
メイアはそう言ってユカをゆび指す。
あ゛ーーー 別にいいけど~ でも、あたしの好きにしちゃうかもよ~。
好きにしてもいい。 どうせあれは、死ぬところだった。
うふふっ♪ ほんとう?
うん・・ メイア もう行く。
ヴォルルの問いには答えず、メイアは再びドラゴンの姿に変化するとスッと飛び立った。
さぁー それじゃあこれからあなたの歓迎会を開きましょうねぇ~。
ヴォルルは、なぜか着ていた服を脱ぎながら呆けているユカに向かってゆっくり近づいて行った。
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