第519話 ◆目覚めた場所
◆目覚めた場所
えっ? どこだっけ、ここ?
ユカは辺りを見回すが、どう考えても学校の裏山ではない景色が一面に広がっている。
あたし、まだ夢見てる?
ユカがお決まりのように自分の頬っぺたをぎゅっとツネっていると、背後でガサッと何かが動いた気配がする。
んっ? なに? これって動物の牙?
振り向いて見れば、ユカの目の前に大きく開いた口があり、鋭い歯がずらりと並んでいるではないか。
でも、さっきまで学校の裏庭にいたユカは、それがまさか かぎ爪恐竜の口だとは気づくはずもなかった。
ただ、口の端からあふれ出した大量の涎を見て、自分が大ピンチであることはすぐに理解した。
そして次の瞬間には、ユカは猛ダッシュで駆け出していた。
かぎ爪恐竜は、ユカの頭を思いっきりガブリと噛んだつもりだったが、瞬時の差で空ぶってしまう。
見れば今日の獲物であったはずのユカは、すでに10m先を逃げて行く。
ユカは中学の3年間は陸上部だった。 なので走りには自信があったし、1年生の時は全国大会にも出場したのだ。
だが、なぜか身長が伸びず2年、3年とタイムも上がらずに、もう高校では文科系のクラブに入ろうと思っていた。
そんなユカなので逃げ足はセレネなんかと比べれば、はるかに速いのだ。
かぎ爪恐竜は頭が良い。 その証拠に群れで狩りをしていたと言われている。
そう、ユカがスタコラ逃げて行く先の茂みには、もう一頭のかぎ爪恐竜が待ち構えていたのだ。
そして、最初の一頭はその方向へとユカを着実に追い込んでいた。
そうとは知らず、ユカは自分の足が速いと思っていたし、当然逃げ切れると思っていた。
しかし、そろそろ全力疾走もしんどくなって来たところに、前方の茂みの中からもう一頭のかぎ爪恐竜が飛び出して来てたのを見てユカは気絶しそうになる。
もうダメ! 夢なら食べられてもいいけど、この疲労感は現実なんだよね・・・
ユカはへなへなと力なくしゃがみ込み、その場でいままで自分がしてきた悪行について神様に懺悔し始めた。
神様、中2の時、欲しいゲームを買うのに少しお金が足りなくて、ママのお財布から千円を抜いた悪い子はあたしです。 ごめんなさい。
この前、早苗のお弁当箱を床に落としたのに、怖くて黙っていた悪い子はあたしです。 ごめんなさい。
パパのシステム手帳でゴキブリを叩いたのは、あたしです。 ごめんなさい。
とにかくいっぱい、ごめんなさい。 だから神様、あたしを助けて・・ キャーーー!
ユカは自分に向かって飛び掛かってくる、かぎ爪恐竜の姿を見て悲鳴を上げ、観念して目をぎゅっと瞑った。
それと同時に自分の体がふわっと宙に浮くのを感じた。 だが、もう怖くて目が開けられない。
それにもしかしたら、少しちびってしまったかもしれない。
だいぶ時間が経っても何も起こらないので、ユカはそおっと目を開けて見て再び悲鳴をあげた。
だって、自分は空高く飛んでいたのだから。 いや、正確には何かにぶら下がって飛んでいた。
いったい自分は何にぶら下がっているのだろう?
首をひねって頭上を見ようとするが首というのは左右に90度ほどしか曲がらない。 ましてや上方向には、ほとんど反らない。
もしこれ以上動くと落下する可能性もあるので、ユカは再び体の力を抜き、だらりとぶら下がったままの姿勢に戻った。
そして再び目を瞑り、いったい自分の身に何が起きているかを考え始めたのだった。
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