第369話 ◆またまた捕まっちゃった?

◆またまた捕まっちゃった?


あたしが中庭に造られた道を進んで行くと、また屋敷の中へと戻ってしまった。


もちろん中庭に居たのでこうなるのは当然なのだが、なんだかガッカリした。


それでも諦めずに廊下を走っていると前方の階段から背の高い男性が降りて来るのが見えて立ち止まった。


ヒッ  思わず大きな悲鳴が出そうになるのを両手で口を塞ぎ堪える。


間違いない、服装や雰囲気で分かる。  あれはエリージャ伯爵だ。


あたしは慌てて踵を返すと今度は先ほどの親衛隊の二人が自分の方へ向かって来るではないか。


もうダメだ。  あたしは一気に力が抜けてその場にへなへなとしゃがみ込んでしまった。


・・・


後ろから肩に軽く手を乗せられて振り返れば、少女漫画に出てくるような甘いマスクのイケメンが立っていた。


セレネ女王陛下、驚かせてしまいすみません。  わたくしは、この屋敷の主あるじエリージャ三世です。


陛下失礼します。 そう言うと伯爵は、あたしを抱きかかえて歩き出した。


こ、これは・・・ いわゆるお姫様だっこというヤツじゃないか。


あたしは、スケスケネグリジェを着ていることも思い出し、恥ずかしさで顔が真っ赤になった。



まずい、体に力が入らない。


ちらっと伯爵を見上げれば、ものすごく近くに伯爵の顔があるではないか。  


長いまつ毛、きりっとした目元、すらっとした鼻筋、桜色の唇・・・ 


ドキ ドキ ドキ


なんなんだ フェロモンでも大量に出ているのか?


あの・・・ おろして・・ くださいませんか。


クスッ  陛下ダメです。


ええーー


も・・もう、一人で歩けますから・・


ご安心を。 このまま陛下のお部屋までお連れいたします。


あーー これはヤバイやつだ。  どうにかしないと既成事実でもつくられたら終わりだ。


この世界では、KISSしただけで婚姻関係となる種族がいる。


伯爵は人間だけど、どんな掟があるかあたしは知らない。


勝手なルールでも持ち出されたら拒否できなくなる場合もあるだろう。



さあ、お部屋に着きましたよ。


ごくり・・・  ああ、もう駄目かも知れない・・・


陛下、ドアを開けるので片手を離します。 落ちないようにわたしの首に手を回してください。


あたしは言われたとおり、そろそろと手を伸ばして伯爵の首に手を回す。


もう、この体制は激ヤバだ。  あたしの顔は茹で蛸のように真っ赤になっていることだろう。



ファサッ


あたしはベッドにそっと降ろされた。


そして伯爵もあたしの隣に横になる。


陛下、だいじょうぶですか?


は、はい。 もう大丈夫ですが、もう少し休ませていただけますか。



伯爵は頬杖をついたまま、クスッと笑った。


そして、そのまま手を伸ばしあたしの髪をそっと触る。


ああ、もうあたしの話しを聴く気なんかないんだな・・・


髪を触った手が頬から顎に流れ、ほんの少し顔を上げられる。


あたしは観念してそっと目を閉じた。


伯爵の顔が近づいてくるのが、影の濃さで分かる。



ピカーーー


なに?  眩しい・・・  目を閉じているのに瞼の裏が真っ赤になったと思ったらすぐに真っ白になる。


伯爵の手が離れ、ベッドから下りたのが分かるが、あたしは眩しくて目が開けられない。


いったい何が起きているのだろう?




あーーー  いたいた。  兄さま、あの女見つけましたわ。


その声は・・・  もしかしてティアなの?

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