第344話 ◆退屈な女王様

◆退屈な女王様


こっちの世界では、電気がないので電車とかテレビなどの電気製品、スマホやパソコン、インターネットなど何もない。


でも魔法があるので結構いろいろカバーできているし、向こうの世界だって江戸時代のことを考えれば、むしろこっちの方が便利じゃないだろうか。


それに海もきれいだし、大気汚染だってない。  星空なんて幻想的ですらある。


でも、やっぱり刺激がないんだよなあ・・・


あーーー なんか面白いことないかなーーーー!


あたしは、小さな子どものように床に転がって両手両足をジタバタさせる。



ちょっと、うっさいわねーー!   誰かと思ったら女王様じゃないの。  みっともないわねえ。


だって、アリシア。 あたし女子高生よ!  あんまり退屈だと死んじゃう生き物なの!


はーーー うっとおしい。


なんだよ。  もとからこっちの世界に居るやつなんかに、あたしの気持ちがわかるもんか!


もう、誰でもいいから八つ当たりである。




そして、だれも構ってくれなくなったので、ひさびさに街をぶらぶら散歩している。


あっ、ここは喫茶店だ。  マスターは元気かな?


あたしは、ちょうど喉も乾いていたので、ちょっとお店をのぞいてみることにした。


カランコロン


ドアをあけるとカウベルが店内に鳴り響く。


マスター元気?


おう、セレネちゃんじゃないの。 またバイトしてくれるの?


やだなあ、そんな暇ないですよ。


いやだって、暇そうな顔してるしさ。  なんだったら、ニーナちゃんとかメイアちゃんでもいいよ!


ふ~ん  ほんとは、ニーナたちの方がいいんでしょ?


ハハハ



ねえ、マスター。  暇はないんだけど、すっごく退屈なんだよねー。  なんか面白いことないかな?


面白いことねぇ・・・  前にいた商店街は、お祭りやってたけどね。  ここはそういうのないなぁ・・・


お祭りか~ それいいね!  マスター、やろうよ。  お祭り!


そうだな。 でもまずは、商店街の店主たちの賛同を得ないとな!  これが意外とたいへんなんだよ。


それなら、あたしも手伝うわ。


おお、そうかい。  それじゃ、ひとつやってみるか。


やったあ!


・・・


商店街の店主たちは結構ノリノリで、すぐにお祭り実行委員会なるものが立ち上がった。


あたしも公務をエスケープして、密かにマスターのお店の2階に泊まり込んだ。


それからは、店主たちと毎日お祭りの具体的な計画を検討したり、宴会でどんちゃん騒ぎをして楽しい毎日が過ぎて行った。


そして、明日はいよいよお祭りの日。


今日は、お祭りの準備で朝から忙しい。  お祭り用に揃えたエプロンをつけ、動きやすいように髪をポニテに結う。


お店や街路樹に飾りをつけたり、屋台用のテントを設営したり、福引の準備をしたりで忙しくても超楽しい。


あーー ひさびさに生きてるって感じだーー!




いたわよ!


いましたね。


見つけた~。


セレネさま、独りだけずるい。


ゆるさない。


にゃっ!


それっ、捕まえろっ!



げっ  しまった!  あたしは、楽しくて公務をほったらかし、もう2週間ちかくお城に戻っていなかったのだ。


その間、みんなが何回か商店街にも探しに来たのだけれど、せっかく楽しいことを見つけたので、隠れてやり過ごしていた。



お祭りが終わったら帰ろうと思ってたのよ。  ほんとなの!  だからせめて、明日のお祭りまで待って!  お願いよーーーー!


・・・


ここは、お城の地下室。  重大犯罪人用の牢屋である。


建国以来使われたことがなかったが、最初にぶち込まれたのが女王とはなんとも情けないことである。


お願いだからだして!  お祭りに行かせてよーーー!


エグッ ウッ ウ゛ーーー  みんなひどいよ・・・



セレネ女王さま、そこにある書類の山を片付けたら、そこから出して差し上げます。


そうすれば、楽しみにしてらしたお祭りにも行けますよ。


そんなあ~  この量は絶対無理じゃない!  お祭りが終わっちゃうよ!


2週間もお仕事をさぼってたのだから、書類が多いのはご自分のせいではないでしょうか。


ひぇ~ん


・・・


女王さまは、この後たっぷりとお灸をすえられて、それでも1日だけお祭りに行かせてもらえたのでした。


ただしそのあと、セレネは罰として2週間、再び牢獄生活を送ったのです。


この牢獄の壁一面には、赤の油性ペンで、’ここからだせ!’とか’このやろーー’とか’おぼえていろよ!’とか’呪ってやるー’とかが書かれているとの噂が広がりましたが、真実かは定かではありません。



セレネもたぶん反省していると思うので、次回へ続く・・・

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