第307話 ◆この木なんの木 気になる木
◆この木なんの木 気になる木
セレネが眉間に皺を寄せて、めいっぱい怖い顔をしているのが、おかしいらしくメイアとシルフたちが、クスクス笑っている。
まったく緊張感のないヤツらだなあ。 ハッタリが見破られたら元も子もないじゃないか。
あたしが塔の屋根をぶっ壊したのが、効いたのかスクルドは約束通りの時間で戻って来た。
セレネとやら、神々が直接お会いしてお話しされるそうです。
どうぞ、あたしについて来てください。
わかった。 連れの者も一緒でいいか?
やっぱり、ひとりでは行きたくないのでスクルドに確認する。
問題ありません。
確認できたので、みんなに手招きで来るように伝えるとメイアとシルフ×2は、これから旅行にでも行くのかみたいな雰囲気で飛んできた。
なので、あたしは怖い顔のまま低い声で、
これから塔の中で神様に会って話しをするからおとなしくしていなさいね
とシルフたちに言うと何が可笑しかったのかケタケタ笑われてしまった。
もうこれ以上は逆効果になるので、何も言わずにスクルドの後について塔の中へと向かった。
シルフとブラックは漫才でもやっているのかと思うほど、話しては笑いまた話すとなかなかにウザイ。
こんなことならアンディと二人でくれば良かったと思っているうちに、広間のような場所に着いた。
ここで座ってお待ちください。
スクルドはそう言うと広間から姿を消した。
しばらく待っていると一番奥のドアが開き、神様と思われる人達が数名入って来た。
その中に変態のリリーさんの姿もあった。
あたしは、いろいろな思いで沸々と怒りが湧いて来たが、じっと耐えた。
神様たちがあたしたちの前の椅子に腰かけ終わると、その中の一人がゆっくり口を開いた。
サリエルからいろいろ聞いたが、赤子はそなたが生んだ子どもなのだな。
そうです。
ふむ。 しかしながら、子種はサリエルのもの。 天界人の子どもは天界で育てるのがしきたりなのだ。
あはは それはあたしが住んでいた世界でも同じこと。 親権は母親が持つことが圧倒的に多いのです。
また、赤ちゃんは母親の母乳で育てなければなりません! それがあたしの世界のしきたりです。 ←嘘
ぐぬぬぬぬ・・・
し、しかし、ここは我々が住む世界じゃ。 同じしきたりならば、この世界のしきたりに従うのが常であろう。
ならば、子どもを連れてあたしの住んでいた世界で育てます。 さあ、赤ちゃんを母親であるあたしに返しなさい。
もし、あなた方が拒むのであれば、最強の軍勢をもってこの天界を消滅させます!
いいですか、それにあたしは、あのヴォルルより何倍も強いのですよ! ←大嘘
ぐぬぬぬぬ・・・
神様たちが、やけに ぐぬぬぬ っと悔しがるのでおかしいと思ったのだけれど、それはあたしが何か言うたびにメイアとシルフたちが、あっかんべーを神様に向けてやっていたからだった。
そなたの言うことはわかった。 ならば最後の判断をユグドラシスに委ねることにしよう。
ねぇ、ユグドラシスって何?
あたしは、小さな声でアンディに聞いた。
ユグドラシスとは、この世界を体現する巨大な木で、我々は世界樹と呼んでいますが、僕も本物は見たことがありません。
ふ~ん。 この木なんの木気になる木~ 見たこともない木ですから~ ってやつだね。
セレネさん、それなんですか?
いや~ アンディは知らなくていいよ。
なんだか僕、気になります。
それじゃ、今度ゆっくり教えてあげるね。
・・・
あたしたちが神様の後について塔の中心部に行くと、なるほどそこには巨大な木が生えていた。
そしてその木の前には、サリエルがあたしの赤ちゃんを抱いて立っていた。
あっ、あたしの赤ちゃん・・・
あたしが駆け寄ろうとしたところ、腕ををアンディにつかまれ引き戻された。
アンディ、離して!
セレネさん、今は我慢して! ここで暴れたらダメです。 赤ちゃんを返してもらえなくなってもいいんですか?
ぐぬぬぬぬ・・・ ←今度はセレネです
アンディの言うとおりだ。 あたしは目の前の我が子を見ながら、ぐっとこらえるしかなかった。
それでは、この者の赤子の将来をどちらに託すべきかをユグドラシスに問うてみよう。
サリエルとセレネが順番にユグドラシスの前に立ち、ユグドラシスの枝の揺れで判断するのじゃ。
まずは、サリエル。 前に進め!
はい。
サリエルが、ユグドラシスの前に立つ。 が、枝はピクリともしない。
次はセレネの番じゃ!
ふふふ サリエルがダメなら、あたしで決まりじゃん!
あたしは、余裕でユグドラシスの前に立った。 が、今度も枝はピクリとも動かなかった。
はぁ~? なにこれ? 嘘くさい!
もういいから、サリエル早くあたしに赤ちゃんを返して!
あたしが、サリエルが抱いている赤ちゃんを奪おうと手を伸ばし、ちょうど二人の手が赤ちゃんを抱いた格好になった時、それは起こった。
なんと目の前のユグドラシスの枝が大きく揺れ出したのだ。
そうか、わかったわ。 サリエルとあたしの二人で育てなさいということなのね。
あたしはくるりと向きを変え、神様たちに向かって言った。
ユグドラシスの判断のとおり、赤ちゃんとサリエルはあたしが連れて帰ります! これで文句はありませんね!
ぐぬぬぬぬ・・・
今度はメイアとシルフ×2、アンディまでが、神様にあっかんべーをしていた。
こうして、あたしのハッタリとユグドラシスの正しい判断で、ついにあたしは赤ちゃんの奪還に成功したのだった。
次回へ続く・・・
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