第306話 ◆あんたが一番(最強)

◆あんたが一番(最強)


この世の中で何が一番最強か・・


それは、子どもを守ろうとする母親だとあたしは思う。


なぜなら、自らの命を捨てても子どもを守ることが出来るからだ。


自分の子どもを取り返す。 その一心がセレネの魂に火を点けた。


自分のどこにこんな力があったのだろうと思うほど、体の中心から力が湧きだして来る。

大勢いた天使の大半が、あっと言う間に海の中に消えて行った。

メイアとシルフたちも、10人くらいは倒しただろう。


アンディも軍神と一騎打ちで、いまは互角の戦いの最中だ。


もはや他の天使たちは戦意を失っていた。

それほどリミッターが解除されたセレネのパワーは凄まじかった。

例えるならば天使たちは、巨大戦艦に向かっていく哨戒艇みたいなものだった。


セレネは、天界の上空をその中心に向かって飛び、たまに向かってくる天使を撃破してはまた進むを繰り返していた。


セレネのあまりのスピードにメイアもシルフも追いついてこれない。


飛び続けると、やがて遠くに大きな塔が見えて来た。


あそこに自分の子どもがいる。  なぜだかそんな気がした。

そして、それは近づくにつれて確信にかわる。


セレネたち侵入者の情報は、逸早く塔の中に伝えられたようで、塔の周りは厳重な守備体制がしかれていた。


中には9人のヴァルキューレの姿も見られる。


さすがにこれだけの数の兵士と多数の強敵の前では迂闊に手出しが出来ない。


しばしの間睨みあいが続く。


しばらくするとメイア、シルフ、アンディの順にセレネがいる場所まで追いついて来た。


さすがに軍神は手強かったようで、アンディも傷だらけだ。


ニーナやアリシアがいれば治癒魔法である程度回復出来たのだが、二人ともここには居ない。


セレネさん、ヴァルキューレを倒すことは無理かも知れない。 しかもヴァルキューレは9人もいる。


あのアンディでも、ここでの力の差は絶望的なのか・・・


でも、ここまで来て諦めるわけには行かないわ!


でも、このまま戦えば全員死にますよ。


よし! ここは一発ブラフを咬ますか。


みんなは、此処に居て動かないでね!



あたしは、一人で塔にゆっくり近づいて行く。


すると塔まで200mくらいのところで、ヴァルキューレ達があたしの前に一列に立ち塞がった。


あたしは大きく息を吸ってから、ヴァルキューレ達に一気に語りかけた。


あたしは異世界からやって来た、九条セレネ・オウゼリッヒである。  ←ほんとう

向こうの世界では、絶対神として崇められている者だ。  ←大嘘


訳あって、こちらのサリエルと子を生したが、こちらの神に子どもをさらわれたので取り返しに来たのだ。 ←ほんとう

もし返さぬというなら、天界全てを殲滅させるために異世界から軍勢を送り込むぞ!  ←大嘘


この口上を聞いたヴァルキューレ達は、顔を見合わせ何やら話し合いを始めた。


あたしは更にハッタリを真実っぽくするために、塔に向けて魔法弾を一発放ってやった。

これもここに来るまでに修得した攻撃魔法の一つだ。

何かに例えるなら、シルフの光の矢みたいなやつだ。


魔法弾は一直線に塔の屋根に向かって飛び、一瞬で屋根を破壊した。


塔の上から崩れた屋根の破片がバラバラと下にいる天使たちに降り注ぐ。


アンディの方をちらっと見たら、明らかにやり過ぎですよという顔をしている。


それを見たヴァルキューレの中のスクルドという者があたしに近づいて来て、これから神々に伺いを立てるのでしばらく待って欲しいと言う。


こういう場合、敵にあまり時間を与えてはいけない。  なぜなら現状を分析したり反撃する方法を考えられてしまうからだ。


わかった、5分だけ待とう!


あたしは、めいっぱい怖い顔をして、更に出来る限り低い声でそう言い放った。


さてさて、セレネのハッタリは通じるのか。  続きは次回までお楽しみに。

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