第266話 ◆黒い犬と悪魔

◆黒い犬と悪魔


突然黒い塊がメイアに飛び掛かり、喉元に鋭い牙を剥いて噛みつくのを目の当たりにして、あたしはもう生きた心地がしなかった。


一生懸命走っているのに、まるでスローモーションのようにしか進めていない感じがする。


それだけ心が急せいていたのだろう。


メイアと黒い塊は、揉み合ったまま石畳の歩道の上をゴロゴロと転げまわっている。


やっとの思いでメイアの所まで来ると黒い塊に見えていたのは、大きな黒い犬だった。


こらっ、メイアから離れろ!


あたしは、犬の背後から尻尾を掴んで引っ張るが、びくともしない。


そうこうしているうちに、周りのお店の人たちが何事かと出て来た。


あらあら、セレネちゃんじゃないの。  それじゃ、あれはメイアちゃんなの?


あ、パン屋のおばさん。  メイアが行き成りあの犬に噛まれてしまって。  あたしの力じゃ引き離せないんです!


待ってて、直ぐにうちの旦那を呼んで来るから!


こらっ、いい加減に放しなさいよ。


あたしも頭に来て、グーで黒い犬の頭をを殴りつける。


ガルルッ


するとやっとメイアを放したと思ったら、今度はあたし目掛けて飛びついて来た。


わわっ


ギャイン


噛みつかれると思った次の瞬間、まさかの犬の悲鳴が聞こえた。



そう、駆けつけたパン屋のご主人が、棒で黒い犬を殴りつけたのだ。


メイア、メイア  大丈夫、怪我はしてない?


あたしが駆け寄るとムックリとメイアが起き上がった。


服が汚れてしまったが、メイアは自分で服が生成できるので、パンパンとはたいて埃だけ落としてあげる。


周りで見ていた人たちも、メイアが立ち上がって怪我をしていないのがわかると、それぞれのお店や家に戻って行った。



パン屋のおじさん、助けてもらってありがとう。


いや、怪我がなくてよかった。  でも、あの犬はどこから来たんだろう。  このへんにも小さな子供がたくさんいるから心配だよ。


そういえば、あの黒い犬から邪悪な気配を感じたような気がしたけど気の所為かな。



あれは、たぶん悪魔。


シルフがボソッとつぶやく。


悪魔って・・・  こっちの世界には悪魔が実在するってこと?


セレネのいた世界の悪魔がわからないけどアレは悪魔。


そうシルフから聞いて、背筋が凍るような気配を感じ振り返るとそこには、あの黒い犬があたしを睨みつけるように見つめていた。


うわ~ 変なのに遭遇しちゃったなあ。


メイア、約束通りお魚を買ってあげ・・・  あれ?  メイアがいない?


やっぱり、悪魔に連れていかれた。


えっ?  ええーーーっ




次回へ続く・・・

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