第267話 ◆ブラックシルフ

◆ブラックシルフ


やっぱりメイア、悪魔に連れていかれた。


えっ?  ええーーーっ   たいへん、どうしよう!


心配ない。 シルフなんとかする。


シルフ、なんとかするってどういこと?


あの悪魔は知ってるヤツ。


えっ?  シルフの知り合いとか?


そんなもの。  あとは任せろ。


心配だから、あたしも手伝うよ。


一人でへいき。  ちょっと探しに行ってくる。



そういうとシルフは、山の方へ飛んで行ってしまった。


仕方がないので、あたしは一人でワインに合うおつまみ探しを再開するが、メイアが心配で頭が回らない。


ヴォルルさんには申し訳ないけど定番のおつまみを数点買ってからいったん部屋に戻り、動きやすい服に着替えてメイアとシルフを探しに出た。



シルフは、何か心当たりでもあるかのように真っ直ぐ山の方へ飛んで行った。


なので、あたしも山へ行く道を歩いている。


この島は自然に恵まれているが、サバイバルゲームをやった山奥には、とんでもないくらい大きな魚や昆虫がいた。


なので正直、虫嫌いなあたしは一人で山歩きはしたくない。


だけどメイアやシルフを心配する気持ちの方がはるかに大きい。 その思いが山奥へとあたしの足を進ませる。



1時間ほど歩くと広い道は行き止まりになってしまった。


その先には獣道のような、人がひとりやっと通れるような道が続いている。


この先に進むか迷ったのは、ほんの一瞬だけだ。


あたしは直ぐに藪の中に分け入った。


そういえば初めてこっちの世界に飛ばされたとき、メイクル村に着くまでこんな道をさ迷ったことを思い出す。



途中で道が二股に分かれていたが、おそらく沢へ下る道と山へと登って行く道だろう。


ここは身に付いた野生の感で、迷いなく山道を選択する。



やがて道はかなり急な登りとなり、ここまで休まず歩いて来たので疲労も限界に達し、ひとまず休憩することにした。


あたしは、出かけてくるときに持って来た水筒の水を飲みながら、まだまだ続く山道を見上げ、溜息を吐いた。


しばらく休んでから、少々重くなった体に鞭を入れ立ち上がった時、前方の木立の中からシルフの声が微かに聞こえた。


辺りに生い茂る灌木を短剣で払いながら進んで行くと、なんとそこにはシルフとメイアとシルフにそっくりな妖精が居た。


あたしは、びっくりしてその場でただ立ちすくんでいた。


3人には、ちょうど大きな木の陰であり風下だったこともあって、あたしが近くに立っているのは分からないようだった。



メイアを返せ!  シルフがもうひとりの妖精に向かって大きな声を出す。


いやだ、あたしの仲間にする。


メイアはセレネの大事な娘。 お前にはやれない。


ならば、これに決めさせればいい。


それはダメ。 お前はメイアの首を噛んだだろ!


ふっ だからこれは、もうあたしのものだ。


ダメよ!  メイアは渡さないわ!  あたしは我慢できずに、二人の妖精の間に割って入った。


セレネ・・ どうしてここにいる?


シルフ、あたなの後を追って来たの。  これはいったいどういうことなの?  この妖精はだれ?



これは・・ 


あたしは、こいつの陰。  もうひとつの魂だ。


もうひとりの妖精がそう言って、あたしを見てニヤリと笑った。


なんですって!  シルフ本当なの?


セレネと会う前に、一人ぼっちが寂しくて辛くて苦しい時に、あたしの体と魂が二つに分かれた。


まさか、ずっとついて来ていたとは思わなかった。


そうだ。 あれからお前だけが、楽しい思いをして来た。  あたしはずっと辛いままだ。  だからこいつを仲間にもらうことにした。


そんな・・・



セレネ、メイアを連れて逃げろ。


あなたは、どうするの?


こいつ・・・ ブラックシルフと決着をつける!


ふふっ  あたしを倒せばこいつも死ぬぞ!


それは、ほんとうなのシルフ?


心配するな、メイアは死なせない。



この時、あたしはシルフが死ぬ気なのだと直感した。


シルフ、戦ってはダメ!


あたしとメイアと一緒に帰りましょう!


それはダメ。 早く逃げて、ヴォルルに助けを求めろ。  ヴォルルならメイアを元に戻せる。


それじゃあ、シルフあなたが・・・


ごちゃごちゃうるさい!  こっちからいくぞ!


もうひとりの妖精から、すさまじい殺気が漂う。


ああっ、ダメ・・ もう、あたしの力ではこの二人は止められない!


この絶望的な状況に、ただ何も出来ない自分が悔しかった。


いま、まさにブラックシルフが飛び掛かろうとした時!


そこの二人、お待ちなさい!


大きく凛とした声が辺りに響き渡った。



次回へ続く・・・

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