第188話 ◆アリシアの帰省(その2) ラッセ泣く

◆アリシアの帰省(その2)


アリシアはハーフエルフだ。 大きくなったらきっとララノア似の美人さんになるに違いない金色の髪、コバルトブルーの瞳の少女である。


そして今はひとり修行の身で、一応あたしが保護者として預かっている。


どうやら最近ホームシックになっているようなので、いったん母親であるララノアのところに帰省させようとしているところだ。



先日あたしからの思ってもみなかった一時帰省の話しに、アリシアはすごく嬉しそうにしている。


やっぱり、まだ7歳だし、母親が恋しいのだろう。



その寂しい思いを封印するためなのか、アリシアはいつもみんなに対して毒を吐いていた。


一番の被害者はコリン君なのだが、二番目はあたしだ。


今度の帰省がガス抜きになって、少しでもおとなしくなれば万々歳なのだが・・・



あたし達が次の小島に寄港した際、アリシアがララノアに帰省しても良いかを尋ねた手紙の返事が既に届いていた。


ララノアからの返事は、もちろんOKだった。



アリシアは、よほど嬉しかったのだろう、その日の夜中に甲板から盛大な爆裂魔法を月に向かって一発放った。


おいおい、花火じゃないんだから、時と場所を考えろよ!


その威力は、何時ぞやコリン君が魔王城で放ったものの十倍くらいだろうか。


なにしろ島全体が揺れたような気がする。



次の日の朝、アミさん、セイラさん、ノアさん、リアラさんの4人のセクシーなお姉さんたちは、この島で受け入れてくれることが決まったので下船の仕度を始めていた。


なんでもこの島の酒場で火山島の噴火が治まるまで働くそうだ。  



気が付けばラッセも自分の荷物をまとめ始めていたので、あたしは驚いた。


実はラッセは、釣り大会の日からリアラさんにぞっこんなのだ。


だが肝心のリアラさんはと言うとラッセには全く関心がないようで、いつも素っ気ない。



ねぇ、ラッセ。  リアラさんは脈が無いみたいだし、やめたほうがいいと思うよ。


あたしは、女としてラッセに忠告してあげる。


そうしたら、ラッセの荷造りをしていた手がピタッと止まって、クルリとあたしの方を振り返った。



あっ や、やだ、ごめんなさい。


ラッセは、声を出さずに目から滝のような涙を流していた。


分かってたんだよオレ・・・  昔っからモテたことなんか一度もねえしよ・・・  


うわぁ・・・ どうしよう・・  余計な事を言ちゃったよ、あたし。



ほいじゃ、オレ、ちょっくら彼女の見送りに行ってくらあ。


そう言って、ラッセは部屋から出て行ってしまった。



セレネってば、ラッセを泣かせてまったく悪い女ね!


しまった。  アリシア、そこにいたの?


そうよ。 ニーナが準備ができたからセレネを呼んで来てだって!


あら、あなた達も出発するの?


うん。 もうすぐママに会えるわ。  セレネ、ありがとう。


そうか・・ 島民の皆さんから、たくさん苦情が来てるんだけどね~。


わ、悪かったわよ!  ついよ、つい!  すっごく嬉しくって気持ちがコントロールできなかったの!


うん、うん。  苦情は、あたしの方で何とかしておくから。


さぁて、それじゃニーナのところに行きましょうかね。


・・・


こうして、アリシアはニーナの瞬間移動で帰省へと旅立ったが、この時二人は予想もしない事態へと着々と近づいていたのだった。

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