第172話 ◆魔王討伐作戦(その5)

◆魔王討伐作戦(その5)


町についたあたし達は、町の人たちから大歓迎を受けたらしいのだけど、あたしは何も覚えていない。


もちろん、みんなもニーナを失った悲しみの中で、町の人たちの空気読めない感の祝賀会は辞退したそうだ。


あたしは、町の宿屋の一室で灯りも点けずに、真っ暗な中でずっと泣いていた。



しばらくして、胸がモゾモゾするのに気が付く。 シルフが目を覚ましたのだ。


セレネ、どうして泣いてる?   シルフは不思議そうな顔をしてあたしを見た。


だって・・・ニーナが・・    最後まで言わないうちに涙が溢れる。


あの時、大丈夫って言った。   シルフの口調がきつくなる。


何が大丈夫なの?


ニーナは死んでいない。     


えっ、だって、あれだけ探したのに見つからなかったし。


シルフが言うの信じられない?  こんな顔のシルフは見たことが無い。


じゃあ、ニーナは今どこにいるの?


それは分からない。


でも本当に生きているんだね?


心配いらない。


シルフの言葉に嘘はないのだろうけど、ニーナの顔を見るまでは心配で心配で、心が張り裂けそうだ。


・・・


次の日、あたしはニーナが生きているらしいと言うことをみんなに伝えた。


みんなは喜んでくれたけど、あたしは次の戦闘に恐怖を感じていた。


自分が死ぬのが怖いというのではなく、仲間が傷ついたり命を失ったりするのが怖いのだ。


それは、目の前でニーナがヒドラに踏みつぶされたことも大きく影響している。


でも、ここで魔王との闘いを止めてしまえば、この国の人たちに危険が及んでしまう。


魔王との闘いのトリガを引いたあたし達は、それだけは絶対にしてはならないのだ。


・・・


ザザーッ  サァーーッ  


波の音でニーナは意識が戻った。


あの時、ヒドラの足があと0.1秒でも早く振り下ろされていたら、おそらく命はなかっただろう。


ヒドラの足が肩に当たった瞬間に、ここまで無意識に移動したに違いない。


そのため肩は骨が砕け、右腕はだらりとぶら下がっている状態だ。



自分自身に治癒魔法をかける場合は、他人にするのに比べ治りが遅い。


それは、自分の魔力を使って自己修復するからだ。


体を元に戻すために自分の力を使えば自身の魔力と体力を奪われる。


辺りを見回せば、ここは海賊の宝を見に来た島のようだった。


随分と遠くまで飛んで来たものだと自分でも感心する。


この距離では肩を治し、体力を十分に回復させなければ、みんなの所に戻る事は出来ない。


それよりも、みんなは無事なのだろうか?


あのヒドラが退路に3体も居ては、逃げきれなかったかも知れない。


ニーナは今の状況に対して、自分の力のなさを嘆いた。



バシャッ


突然、波打ち際で何かが跳ねる音がした。


いまこの状態で、何者かに襲われたら防御のしようがない。


ニーナは音のした方を目を凝らして見回した。

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