第166話 ◆魔王の城

第九部


◆魔王の城


モッフルダフから聞いた話しでは、あたし達が次に向かっている国は、こちらの世界で一番貧しいらしい。


別に気候が悪くて作物が育たないとか戦争が絶えないとかでは無くて、魔王と魔族の所為らしい。


人々を襲うこともあるらしいけど、収穫された作物や家畜や水揚げされた魚介類の多くを巻き上げているそうだ。


時には、若い娘も差し出せと言って来るらしい。


それで、モッフルダフはこの国で売る薬の価格は儲け無しの仕入価格で販売するし、場合によっては赤字になっても構わないと言う。


さすが、モッフルダフはあたしの師匠だけのことはある。


・・・


船は長い航海を終え、一番大きいと言われる港に入港したが、よその国と比べて活気がないし、建物も古ぼけている。


やはり、魔物に富を奪われているのだろう。


人々は、魔物を養うための奴隷と化しているに違いない。


港で荷下ろしの手伝いをしている子供たちが着ているボロボロの服を見て、あたしは何だか人々が気の毒に思えて来た。



ねぇ、モッフルダフ。  


セレネさん、駄目です。


なんで? あたし、まだ何も言ってないじゃない。


言わなくても顔に書いてありますよ。


此処にいる魔物や魔王は、以前戦ったダンジョンの奴らとは比べ物にならないくらい強いし数も多いのです。


強力な軍隊でも敗北していますから、我々ではどうすることもできません。


例えるなら一番弱い魔物が、ヒドラクラスと言えば分かってもらえると思います。


・・・ あたしは、それを聞いて黙ることしかできなかった。



荷下ろしのための人々は、女性や子供しかいない。


聞けば男たちはみんな、魔物達の監視下で畑や魔王城の増築作業などに駆り出されているらしい。


よく見れば、港の中にも魔物がウロウロしているではないか。


人を襲わないのは知恵があり魔王の下、統率が取れているからだとモッフルダフは言う。


そしてここにいる魔物は、人々がこの国から船を使って他の国へ逃げ出さないかの見張り役なのだ。



なに? あれ?


気が付けば、アリシアが横に来て桟橋で荷下ろしをしている人たちを見ていた。


まずいな、この子また騒ぎを起こしそう。


アリシア、モッフルダフから聞いたんだけど、荷下ろしが終わったら直ぐに出航するって。


此処では上陸しないから、船室に居なさい。


そう、あたしが話していると、荷下ろしの手伝いをしていた小さな子供が、何かに躓いて転んでしまった。


持っていた箱の薬の瓶が幾つか割れて、薬液がこぼれ出てしまう。


すると近くにいた魔物が駆け寄って来て、その子供を力いっぱい殴りつけた。


あっ!


あたしが思わず声をあげたと同時に、アリシアが氷結魔法を放ってしまった。


その魔物は一瞬で凍り付く。


この事態に気づいた他の魔物達が早速集まり出した。


しまった! これは、まずい事になる。


恐る恐る横に居たモッフルダフを見ると、彼はアリシアの頭をそっと撫でていた。

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