第158話 ◆帰りたいよ!

◆帰りたいよ!


おかしい!  ここは、本当にあたしが暮らしていた世界なのだろうか?


あたしの家には、知らない女ひとが住んでいるようだったし、よく見れば家の周りの風景も微妙に違う。


あたしはもしかして、気が触れてしまったのだろうか?



ふと、傍に会った自販機を見ると、よく飲んだジュースやお茶の値段が20円くらい高くなっている。


喉がカラカラだったので、お金があれば買いたかったけど値段をみて驚いた。


もしかしたら・・・


ちょうど反対側から歩いて来たお爺さんに、今年は何年でしたっけ? と尋ねてみる。


なんだよ、俺はまだボケてないよ!  今年は20xx年で合っているだろ?



ど、どうもすみません、ありがとうございました。


20xx年・・・  あれからもう15年も経ってるってこと?


それならば、町の景色が変わっていることや、あたしの家に違う人が住んでいる可能性も納得がいく。


おそらくうちは15年の間に、どこかに引っ越してしまったのだろう。


失敗した。 隣の家の表札も見てくればよかった。


でも、隣の佐々木さんがまだ居たとしても、こんな話は信じてくれないだろう。



あたしは、夕暮れ間近な町を、とぼとぼと歩いていた。


お腹が空いたなぁ・・・


戻って来てみれば、なんだか自分が住んでいた世界に居る方が惨めに感じられる。


シルフやメイアやニーナは、今頃どうしているだろう?


帰れるならば、今すぐにでも戻りたい・・・ 戻ってコリン君の作った暖かいシチューが食べたいよ~


グスグスと泣きながら歩く。 



歩いていたら小さな公園があったので、水飲み場で少しだけ水を飲んだけど、向こうの世界の水の方が遥かに美味しい。


あれだけ自分が居た世界に戻りたいと思っていたのに、これはいったいどうしたことだろう。


そうだ。 もう向こうの世界にあたしの大切な人がたくさん出来たからだ。


だから、自分の大切な家族や友達が居る場所に帰りたいんだ。



公園の隅にあるベンチに腰をかけて、小さな子供のようにわんわん泣いた。


涙も鼻水も出たけど、ハンカチもポケットティッシュも持っていなかったので、服の袖でそっと拭いた。



ふと空を見上げると、そこには懐かしい、まあるいお月様がぽっかり浮かんでいた。

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