第156話 ◆気絶ですか?
◆気絶ですか?
猫耳司書さんは、シャーーっと逆毛を立て、あたしを威嚇し始めた。
えっ? ちょっ、 なに?
司書さんの突然の変貌に、あたしはパニックになる。
もしあたしが何か気に障るようなこと言ったなら謝ります。
ごめんなさい。
パカーーンッ ンンンーーーッ
あたしが深々と頭を下げていたら、もの凄い音が館内に響き渡った。
あたしは、もう怖くてビクビクしていた。
その音の後、元の図書館のように静かになったので恐る恐る顔を上げると、なんと目の前に猫耳司書さんがうつぶせに倒れている。
その後ろで、館長と名札を付けたうさ耳の大柄な男性が、重そうなブックエンドを右手に持って立っていた。
うわっ もしかしてアレで引っ叩いたのか? 随分と鬼畜な館長さんだな~。
お客様、お怪我はありませんでしたでしょうか?
はい・・ 大丈夫です。 って、司書さんの方が大丈夫じゃないみたいですけど!
これはお見苦しいところを。 直ぐに片づけますので・・・
そう言って館長さんは、白目を剥いている猫耳司書さんズルズル引きずってバックヤードに消えて行った。
あたしには、いったい何が起きたのか、さっぱり分からなかった。
猫派か犬派のどちらかと聞かれれば、あたしは猫派なのだけれど、司書さんの大きさでシャーーとか威嚇されると物凄く怖い。
それにもし館長さんが来なかったら、猫耳司書さんに引っ掻かれて怪我をしたかも知れない。
そう思ったら急に調べ事なんかどうでもよくなって、早く帰ろうという気持ちが強くなった。
こうなったら長居は無用だ。
あたしは、出口から外に出てカウンターに預けたバッグを受け取ると一目散に坂を駆け下った。
港の近くまで下りて来て少し落ち着いたので、留守番組へのお土産を買って帰ろうとして、何かを忘れているような気がした。
預けたバッグはちゃんと返してもらったし・・・
あっ しまった、ニーナを置いてきちゃった!
あちゃー また、あの長い坂を上るのかーー やだなーーー
でも、娘を置いて自分だけ逃げ来たのは、母親失格である。
あたしは、またダラダラ坂を重い足取りで上り始めた。
坂の途中まで来たとき、前から凄い勢いで誰かが駆け下りて来る。
既に夕暮れ時にさしかかっていたのと周りが林のために薄暗く誰だかハッキリしない。
ニーナにしては、バタバタしているのでおそらく違う人だろう。
だんだん人影が大きくなり、それがどうやら猫耳司書さんだと分かった時、急に足がガクガク震え出す。
あたしは、その場で回れ右をするとまた一目散で坂を駆け下りる。
が、所詮人間は獣人にはかなわない。
あっと言う間に追いつかれ追い抜かれた。
猫耳司書さんは、3mくらい前でフルターンし、こちらに向きを変えるとその場で土下座した。
わ、わたしのメチャメチャ勘違いでした。 誠にすみませんでした。
あたしが、どうしていいのか分からずアワアワしていると、いつの間にか後ろにニーナが立っていた。
司書さん、もういいですからどうぞお立ちになってください。 あたしに代わってニーナが猫耳司書さんに話しをしてくれる。
どうやらあたしが、海賊の宝がある島に行ったと言ったことで、宝物を盗むつもりだったと勘違いしたらしい。
ニーナがモッフルダフから宝物は見るだけだよと島のある場所に連れていってくれた事を説明して、誤解を解いてくれたらしい。
なんでも、あの宝物は猫耳司書さんとモッフルダフが命懸けで発見したらしい。
当然、所有権も二人にあるそうで、役所にも書類を提出し登録してあるそうだ。
だからモッフルダフは見るだけと言ったのか・・・
あの時、もう少しちゃんと話しておいてくれればこんなことにならなかったのに、いつも何かがずれていて、あたしが酷い目にあうパターンだ。
そして、猫耳司書さんが、次の日にモッフルダフを訪ねて来ることになるとは、この時微塵にも思っていなかった。
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