第146話 ◆男の娘
◆男の娘
結局、2チームの売上は拮抗したまま、10日目を迎えていた。
最初に均等に分けた薬の残った量を比べれば、ほぼ同量であり、今日中にそれぞれの残り分を売りつくせば、引き分けになることが判明した。
先に自分たちの分の在庫を全て売りつくし、相手の在庫を少しでも売った時点で、勝敗が決まるはずだった。
でも結果的には2チームで競争したことが良い方向に向かい、仕入れた薬の全てを売ることができた。
それは、師匠のモッフルダフも驚くほどで、利益もかなり上がり、せっかくなので盛大に慰労会をしようという事になった。
今回、特に頑張ったのはアリシアだと思う。
この子は7歳なのに母親ララノアから離れて、一人で修行の旅に出ている。
最初は、全く何も話してくれなかったのだけど、最近は自分の意思をしっかり伝えてくれるようになった。
で、慰労会は造船所の傍にある、あたし達が泊っている宿屋からすぐ近くのピザ屋さんで行う。
なぜかというと、アリシアはピザが大好物だからだ。
航海中にあたしとニーナが、みんなのおやつによくピザを焼いたのも、アリシアがピザ好きになった理由かもしれない。
モッフルダフ達も誘ったのだけど、おじさん達はお酒を飲むので遠慮しておくと言われた。
でも頑張ったご褒美にと慰労会の会費をモッフルダフたちが出してくれたので大感謝だ。
ピザはこっちの世界にもあって、種類も豊富だ。 もちろんデリバリーピザ屋さんは無いけどね。
みんなして、ぞろぞろとピザ屋さんに出かけるとお店の方からピザが焼ける良い匂いがしてくる。
お店で一番大きなテーブルにみんなで座って、メニューとにらめっこである。
アリシアは、どんなピザが食べたいの? リクエストがないか一応聞いてみる。
マルゲリータは基本ね。 あとはエビマヨとか照焼チキンとかシーフードとか荒くれ蟹のほぐし なんかもいいわね。
ひゃぁー やっぱり育ちざかりは食べるねー。 もしかしたら、メイアといい勝負じゃない? ちょっとからかう。
そんなことないもん! そう言って、頬をぷっくりと膨らます。
この辺は、まだ7歳らしくてとても可愛い。
メイアがとんでもない枚数を注文用紙に書こうとするのを阻止しながら、店員の女の子を呼ぶ。
すみませ~ん。 注文お願いしま~す。
は~い。 いま伺いま~す。
お店の奥から、店員の可愛らしい女の子が注文を取りに速足でやって来る。
が、床にこぼれた水を踏んで、片足がずるっとすべった。
きゃぁー
ズッデーン
それは見事な尻もちをつく。
あ゛ーーー 痛ってぇーーー!!
はっ!?
いけない、いまので男だってばれちゃった?
えーーっ あなた男の子だったの?
あーー 一応言っておきますけど、これっておねえとか趣味とかじゃないですから。
でも、あなたどっから見ても、女の子にしか見えないよ。
全員が、うん、うんと頷いている。
あたし・・ いや僕は、この店の店主の息子で、コリンって言うんです。
お店が忙しいと手伝わされるんだけど、お店には看板娘が絶対に必要だって言われて・・・
えーー あたし達みたいに女の集団なんかは、絶対男子がいいけどなーー
いや、女の子の恰好じゃないとバイト代出さないっていうもんだから仕方なく女装してるんですよ。
あっ、いま僕、女装って言っちゃいましたけど、さっきも言ったとおり、そんな趣味はないですから。
コリン君わかったから、注文いいかな?
あ、はい。 すみません。 どうぞ!
それじゃあ、とりあえずマルゲリータとエビマヨと照焼チキンを2枚ずつお願い!
あと、飲み物は、ジンジャーエールとレモン炭酸水とオレンジジュースを3つね。
はい、ありがとうございます。 直ぐにお持ちしま~す。
・・・
しばらくすると、でっかい焼きたてピザがテーブルの上に並んだ。 もう大きすぎてテーブルにぎりぎり乗ってる状態だ。
飲み物がテーブルに乗らなかったので、隣の空いているテーブルにコリン君が置いてくれる。
どうもありがとう。
あ、あのっ お姉さん、ちょっといいですか?
コリン君は、ピザ焼き窯の方を気にして、チラチラ見ながら小さな声で聞いて来た。
うん? どうしたの?
お姉さんたちって、薬を売ってましたよね?
そうだけど、いつも薬を売っているわけじゃないわよ。 あたし達は船を使って商売をしているの。
それで今回は、たまたま商品が薬だったてわけ。
やっぱり、船であちこち回っているんですよね。 コリン君の目がきらきらしだした。
そう、世界中を旅して回るの!
あ、あのっ! ぼ・・僕も一緒に連れてってくれませんか? どうかお願いします。
へっ?
あたしは、間抜けな声をだしたまま、しばしフリーズしてしまった。
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