第141話 ◆人魚族
◆人魚族
あたし達は、洞窟の中から聞こえたヤバイ唸り声で、いったん浜辺まで撤退してきた。
あの狭い場所でヒドラみたいなのと遭遇でもしたら、命が幾つあっても足りない。
ゲットできない宝物を、危険を冒してまで見る気は毛頭ない。
みんな、怖かったね~ とみんなの方を振り返ると全員が首を横に振る。
え~ 怖くなかったの?
ぜんぜん。 ←アリシア
まったく。 ←シルフ
雑魚。 ←メイア
そうなんだ・・・ みんな、それなりに強いもんね~。
でも、あたしは普通のただの人なんで、怖かったのっ!
もう、帰る!
と、二三歩進んだところで、ボートが大破したことを思い出す。
あっ、そうだ。 ボート壊れちゃったんで、悪いけどメイア乗せっててくれるかな?
もう一度、振り返ってメイアを見ると、みんなで両手をバッテンに組んで、ブッブーーと言う。
なんでよ~。 お腹も空いたし早く帰ろー。
そう不貞腐れぎみに言うあたしに、アリシアが言った。
それは無理。 セレネ、後ろを見て!
再び浜辺の方へ視線を移すと波打ち際いっぱいに、人魚がずらりと並んでこっちを見ていた。
その数は、200人は居るだろう。
みんな美人さんで美乳なんだけど、急にアナンタ(頭は人、胴体は蛇)を思い出してしまった。
あたしは、ハッキリ言うと鱗は苦手なんだ。
あ、あなた達は、いったい・・・
それは、わたしたちの方が言いたいこと。 ここは、人魚族以外は立ち入ってはならぬ場所です。
そうなんですか。 ごめんなさい。
経験上、まずは下手にでることを、あたしは忘れない。
で、でもですね・・・ ここにある宝物は、海賊の物なんじゃない・・でしょうか・・ね・
尻すぼみに声が小さくなる。
この島は、人魚族の神聖な儀式を行う場所です。
すみやかに立ち去らぬなら、ここからは生きて帰れないでしょう。
・・・
・・
えーー 立ち去ります! はい! 今すぐに・・
ささっ みんな、それじゃあ早く帰りましょう。
あたしは、まだ幼女のままのメイアの背中に回り込んだ。
ちょっといいかしら?
あ、アリシア何を言う気なの?
あなたたち、何も言わずにあたし達が乗っていたボートを壊したわよね!
それって、あたし達を殺す気満々だったってことでしょ!
それは、人魚族の島へ勝手に上陸するつもりで近づいていたからです。
言い訳はいいわ。 例え人魚族とは言え、この世界には掟があるのを知っているはずよ!
他国の者に攻撃を加えるなら、最初に理由と警告を発しなければならない。 あなた達は、それをしていない!
アリシアは、リーダーらしき人魚をゆび指し、強気に攻める。
この期に及んで、四の五の言って立ち去らぬなら、これまでです。
小さいエルフの女の子に言い負かされそうになり、人魚が逆切れする。
それっ! ひとりもここから帰してはならぬぞ!
人魚たちが怖い顔をして、匍匐前進(ほふくぜんしん)してくる。
うわーーーっ!
あたしは小学生の頃に見た、井戸から白い服を着た長い髪の女が出て来た映画がフラッシュバックして、超恐ろしくって絶叫してしまった。
人魚たちが前にズルズル進むたびに、あたし達は洞窟の方へ同じ分だけ後ずさりする。
ねぇ、みんな。 もう後が無いよ~! あたしは泣きを入れる。
ボンッ
わざとだろうと思うけど、メイアが大きな音をさせて、超大型のドラゴンに変化した。
ゴォォーーー
そして間髪入れずに空へ向かって激しく炎を噴き上げる。
キャーーーッ!
間近でそれを見た人魚たちは、悲鳴をあげながら蜘蛛の子を散らすように海へと逃げて行った。
確かに人魚の炙り焼きとかグロそうだ。
ふぅ~ 助かったぁ・・
でも、あんだけ怖そうなドラゴンを見ても何とも思わないなんて、自分も随分ドラゴンに慣れたものだと我ながら感心する。
で、みんなは、まだ宝物見たいの?
あたしはいいや! いまのでなんだか興味なくなっちゃった。
アリシアの姉御、あんた小さいのに極道の女みたいだよ。 あたしは心の中でそう思った。
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