第123話 ◆全裸の治療

◆全裸の治療


モッフルダフの船とすれ違った後、クジラ君はゆっくりスピードを落としたあと、ユーターンしてモッフルダフの船を追い始めた。


もし、モッフルダフに気づいてもらえなければ、射程距離内にいる間は砲撃された場合、直撃を受ける可能性が高い。


だけど、危険ではあるがここで置いていかれたら、もう助かる見込みは無いのだ。


あたしは、覚悟を決めて直立不動の姿勢で前方をじっと見つめた。


その時、上空から黒い影がスゥーと甲板に降りた。


あっ、 あれは、メイアだ!


よかった、あの子無事だったんだ。  メイアがいるということは、シルフとニーナとアリシアが一緒の可能性は高い。


メイアーーー!


メイアを大声で呼ぶ。  メイアは耳がいいからこの距離でも必ず聞こえるだろう。



はたして、すぐさま甲板からメイアが自分の方に向かって飛んで来るのが見えた。


助かったぁ~


ア゛ーーーーッ!


ほっとしたのもつかの間、下がびしょ濡れパンツだったことを思い出す。


モッフルダフの船には、おじさん3人組が乗ってるので、絶対にパンツは見られないようにしなくてはいけない。




クジラ君からメイアに乗り移り、船に向かう短い間にエイミーが重症だということを聞かされる。


あの高さから水面に叩きつけられたら、やはり無事では済まない。


高いとこらから落ちた場合、水面はコンクリートの硬さだと聞いた事がある。


きっと、あたしは石頭のせいで助かったのだろう。 実は気が付いた時、頭が痛かった。



モッフルダフの船の甲板に降りて、真っ先にエイミーのところに駆け寄る。


エイミー ・・・


エイミーはぐったりしたままで、呼吸も弱々しい。


早く病院で診てもらわないと命に係わるかもしれない。


でも此処は、広い海のど真ん中だ。  病院などあるはずがない。


あたしは、よい考えが浮かばず、だんだんパニックになる。



すると、アリシアとニーナがエイミーの体を両手でスキャンするような仕草をしだす。


二人とも何してるの?


いま、エイミーの体の壊れているところを直してるの。 気が散るから静かにしててください。


アリシアが真剣な表情のまま、抑揚のない声で答えた。


ニーナの手からは、シルフの体が光ったときに見えた虹色の光が柔らかく発せられている。


セレネお願い、エイミーの服を脱がせて。


アリシアが手をかざしながら、エイミーの服を脱がしてと言う。


えっと、全部?


全部だけど、上から順番にお願いします。


わかった。


あたしは、なるべくエイミーの体を動かさないように、服を脱がせて行く。


あっ、やっぱり脱がすとかじゃ無くて、剥がしてください。  骨が折れてます。


わ、わかった。


あたしは、オリハルコンの短剣を使って、上着、下着を切りながら、服を取って行った。


ちょっと! リアムは、あっちに行ってて!


リアムも足の骨を骨折していたなんて知らなかったので、このスケベ野郎みたいな目で睨んでしまった。


服の布が全て剥がせた後、二人が両手をかざしながら、エイミーの体を上から下へゆっくり動かしていく。


30分ほどすると、エイミーの呼吸が安定し、うっすらと目が開いた。


あ・・ あたし・・


うっ


あっ、まだ動いてはダメよ!  


セレネ・・


ここは、モッフルダフの船の上だから、安心して!


あたし・・ たすかったの?


うん。 もう、大丈夫だから。


そうだ!  リアムは?  リアムはどこ?


リアムも一緒よ。 エイミーが治療中なんで、向こうに行ってもらった。


そう、よかった。 ってか、あたしなんで全裸なの?


ごめん。 治療の邪魔なんで、服は切っちゃった。


あたしは、エイミーのお気に入りの上着の切れ端をヒラヒラ振って見せてあげた。


エイミーの苦悶の表情は怪我のせいだと思うけど、間違ってないよね。


それにしても、マグナムってあんな所にベルトで固定してたんだ。


流石に、あれを切ってたら、あたしの命が無かっただろう。


オリハルコンの刃が少しでも皮のベルトあたっていたら、アウトだったなと思う。


まぁ、あたしも、まだ濡れたパンツ姿のまんまなんだけどね。

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