第121話 ◆お願い気付いて!
◆お願い気付いて!
クジラ君と幽霊船から逃げて、更に1時間ほど進むと別の船影を発見した。
なんだ、このとてつもなく広い海にだって、結構な数の船が航行してるじゃないか。
クジラ君も今度は少し警戒しているのか、ゆっくりその船に近づいて行く。
でも、あたしの喉はカラカラだ。 早く水が飲みたい。
あと、パンツ姿がたいへん恥ずかしい。
肉眼で船の形がある程度確認できる距離まで近づくと、どうやら後ろから船に接近していたため、船尾の砲門がこちらを狙っているようにも見える。
普通なら砲門は、攻撃体制を取らない限り扉が閉じられているが、今は開いている。 つまり、いつでも発射できるということだ。
船尾の形や砲門の数、修理の後を見るとモッフルダフの船に間違いはない。
砲門を開いているのは、巨大烏賊が近くにいるのか、それともあたし達(と言ってもあたしは小さくてクジラ君しか確認できていないと思うが)を敵と勘違いしているかだ。
ドォーーン
ザッバーン
わわっ
いきなり打って来た!
そうか! クジラ君が船を曳いていないので、ただの海獣と思われているのかも知れないぞ。
どうやってモッフルダフ達に、ここにいるのがクジラ君とあたしだと伝えることが出来るのだろうか?
ドォーーン
ザッバーン
あたし達は大砲の射程距離外に居るので、当たる心配は無い。
おそらく威嚇のつもりで打っているのだろう。
クジラ君どうしようか? 言葉は通じないけど、気持ちで話しかける。
その言葉が分かったかのように、クジラ君は進路を左直角方向へ変えた。 船なら一旦、取り舵いっぱい状態だ。
あっ、わかった。
モッフルダフの船には、船尾以外にも左右両舷に二門ずつ付いている。 これは中型の商船としては、普通の装備らしい。
そして船首側に、大砲は無い。
つまり、クジラ君の最大船速で左から追い越し、モッフルダフの船の船首側からすれ違うように進めば、向こうも気づくという作戦だ。
海賊船は左右両舷共に10門以上あるので遭遇した場合などは、圧倒的な戦力差があるが、商船のそれは主に魔物対策用だ。
実際、あたしは船尾の砲で、海龍をぶっ飛ばした事がある。
距離を大きく取って、追い越して回り込むため、クジラ君の負担は大きい。
フィアスは、この世界では最速を誇る大鮫だが、怪我が治ったばかりで、いまは速度が出ていないのが幸いだった。
クジラ君は、グングンとスピードを上げて行く。
背びれにしっかりとしがみつくが、背びれの左右からの水流は凄まじい威力だ。
背中に跨っていることは出来ず、体は真っ直ぐに伸び切った状態で、手がしびれて来る。
例えるなら、今は鉄棒にずっとぶら下がっているような感じだ。
時々、魚や千切れた海藻などが、ぶち当たって来る。
この時は、本当にしんどかった。
そして、やっとモッフルダフの船の前方200mくらい前に出ることが出来た。
あとは、すれ違う際に、モッフルダフ側が気づいてくれるかにかかっている。
すれ違う船のスピードを考慮しても、200mはあまりにも短い。
オリンピック選手どうしなら10秒で接触し、5秒間で離れてしまう。
あたしは、クジラ君の背びれを左手で掴み、背中の上に立ち上がって思いっ切り右手を振り、大声で叫んだ!
おおーい! モッフルダフーーー! あたしだよーーー セレネだよーーー!
これだけで叫んだだけで、もうすれ違ってしまった。
果たして、気づいてくれたのだろうか。
クジラ君はゆっくりとスピードを落とした。
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