第120話 ◆クジラに乗ったJK
◆クジラに乗ったJK
黒くて大きな背びれが波を凄い勢いで切って、こっちへ突っ込んで来る。
ああ・・もうダメ!
あたしは死を覚悟した。
よく思い出せてないけど、お父さん、お母さん、いままで育ててくれてありがとう。
ギュッと目を瞑る。
ゴッ
固い物が優しくぶつかったような音がしてそっと目を開けると、黒くて艶々(つやつや)した背中が目の前に見える。
わかった、あなたクジラ君だ! よかった、あの烏賊のお化けには食べられなかったんだね。
クジラ君は、あたしが乗った板切れの横に静かに止まって、ぷかぷか浮いている。
自分の背中に乗れと言っているような気がしたので、いったん海に入ってからクジラ君の背中に乗り移り、背びれに掴まった。
こっちの世界のクジラは、速く泳ぐため体が大きくても背びれがあるとモッフルダフから聞いた。
そういえばシャチもクジラの仲間だっけ?
イルカに乗った少年という曲があったという話しは思い出した。
それなら自分はクジラにのったJKだ。 このときはマジで勝ったと思った。
あとで何に勝ったのか?だったけど、おそらくこの時のあたしは、精神が逝っていたのだろう。
クジラ君は、あたしの事を覚えいてくれたのだけど、悲しいことにコミュニケーションを取る手段が無い。
それにここは広大な海の真ん中なのだ。 板切れがクジラ君に変わっただけで、水や食料の問題は解決していない。
でも、あたしが背中に乗るとクジラ君は迷わず、ある方向に進みだした。
もう速い速い、水上バイクなんてもんじゃない。 あたしは振り落とされないように背びれにしっかり掴まった。
1時間ほど経ったころ、遠くに船影を発見した。
あれは、たぶんモッフルダフの船だろう。
助かったと思ったとたん、思い出した。
あたし、下はパンツ姿だよ・・・
しかも、あのフィアスには、おっさん4人が乗り込んでいるじゃん! もう、マジ最悪~!
あとは他のみんなも、モッフルダフに救助されているとよいのだけれど、どう考えてもそれは難しいのは分かっている。
なぜなら、メイアがあの船に居れば、もうこっちに飛んで来てるだろうし、エイミー達はあたしと一緒に飛び込んだのだから、位置的にこんなに離れたところには居ないだろう。
クジラ君が、頑張ってくれたので、モッフルダフでは無い船に着いてしまった・・・
なんだこの船? ボロボロじゃん!
パイレーツ・オブ・カリ○ア○に出てくる、幽霊船に超似てる。 この映画のタイトルは、このオンボロ船を見たとたんに思い出した。
クジラ君、この船じゃないよ! 早く引き返そうよ!
あたしは、怖くなってクジラ君の背びれをグーで3回、ぶっ叩いた。 これだって立派なコミュニケーションだ!
クジラ君は気が付いたのか、殴ったことに怒ったのか分からないけど、ユーターンするとさっきより、スピードを上げた。
全身でヤバサを感じる。 全砲門がこっちを狙っている気がするのだ。
でも、クジラ君がいま潜ったらあたしは、絶対に海の藻屑だ。
じゃぁ、いつ潜るのか?
今でしょ!
違う、違う。 なんでこのタイミングで変なことばかり思い出すのだろう!
ドォーーン
ザッバーン
一発目が放たれ、直ぐ近くに着弾する!
うわっ、あっぶなっ!
敵にパンツを見せながら逃げるJKを大砲で打つなんて酷いよ!
ドォーーン
ザッバーン
今度は、だいぶ後方に弾が落ちたようだ。
速力で勝るクジラ君とケツ出しJKペアの勝利を確信する!
でも、スゴロクで5進んで4戻ったような気分になる。
あ゛ーー もう! 烏賊のバカヤローー!! 一夜干しにして食ってやるーー!
あたしは、大海のど真ん中で、いっぱい毒づいたのだった。
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