第118話 ◆沈没
◆沈没
あたしは、面舵を一杯に切って、船の進行方向を右に振った。
モッフルダフは巨大烏賊がまたフィアスを狙ってきたと判断し、あたし達の船を逃がしてくれたのだ。
巨大烏賊は、随分前からフィアスを狙い続けていた。
まだ、モッフルダフと出会ったばかりのころにも、フィアスは一度この巨大烏賊に襲われて、怪我を負っている。
モッフルダフの船と離れてから1時間ほどが経ち、巨大烏賊の姿は見えないので、どうやらこちらには来なかったようだ。
あたしは二人警戒体制を解いて、順番に食事をするようにみんなに伝えてまわった。
そして、船尾のエイミーとリアムのところまで行く途中で、二人が続けざまに大砲を放った。
ドォーーン
ドォーーン
なに? もしかして、こっちがマークされてたの?
急いで船尾まで走ると、逆方向からエイミーとリアムが青い顔をして逃げて来た。
巨大烏賊なの?
いいから! 早く船首の方に逃げて!
あたしは、何のことか分からないまま、一緒に船首の方に走った。
途中で、船体が大きく揺れ、船が船首を上にして傾き始めた。
あっと言う間に船体の傾斜は30度ほどになり、ドアの手すりにぶら下がったまま、身動きが取れなくなる。
前方からは、船尾に向かっていろいろな物が滑り落ちてくる。
もう、お笑い芸人がクイズで不正解すると滑り台の角度がきつくなって、落下するやつじゃん!
このままでは、船ごと海中に引きずり込まれてしまう。
そのころ、マストの上にいたニーナとシルフは、メイアに助けられ、アリシアと3人でメイアの背中に乗って船の上空を旋回していた。
まだ、あたし達が船の中に残っているため、船に絡みついた巨大烏賊を攻撃できないでいる。
まあ、このメンバーでは、的確な判断を求めるのは酷だろう。
メリメリッ
バキッ バキッ
船体が軋み、舟板が割れ始める。
もう、ドア枠に立てるほどの傾斜になってしまったので、船室の壁を床のように歩き、丸窓を開けて外を見れば、もう海面は遥か下にある。
ここから海に飛び込んだら、ただでは済まないかもしれない。 オリンピックの飛び込みの選手でも10mなのに、ここからだと海面までは40mくらいある。
それにこの窓の大きさだと脱出しようとしても、お尻が閊えるかも知れない。
あたしはダイエットを先送りしたことを悔やんだ。
うわっ、たっか! マジかよ!
エイミーとリアムも窓から下を覗いて、覚悟を決めたようだ。
もう、ここまでか。 短い間だったけど、二人ともいろいろありがとう。
セレネってば、何言ってるの! いいから飛ぶよ!
えっ、だって窓が小さくて出れないよ!
窓が小さければ壊せばいいのよ!
そういうとエイミーのマグナムが久々に火を噴く!
ダァーーン ダァーーン
窓枠が見事に吹き飛び、大きな穴が開く。
ほら、これならセレネのお尻も楽々通るでしょ!
こんな時にも、エイミーは余裕だな。
でも、海に飛び込んでも、下にはあの巨大烏賊が待ち受けている。
もし触腕に捕まったら、もう最後だ。 一瞬で体の骨が全て砕け、烏賊の口に飲み込まれる。
あたし達の体なんて、おつまみにもならないのに・・・
ダッ
おっ先にぃーー
エイミーとリアムが手をつないで先に飛び降りた。
ザバーーン
この高さからだと水面に浮かび上がってくるまで時間がかかる。
二人の無事を確認している暇などないのだ!
もう、自分の強運を信じて飛び込むしかない。
えいっ!!
あたしは目を瞑って、思いっきりジャンプした。
・・・
あれれ? いつもで立っても海に落ちた気がしない!
もしかして死んだ?
そぉっと、目をあけるとなんと、壊した窓枠の板がギザギザになっていて、スカートが引っかかっていた。
あわわわっ ど、どうしよーー!
バタバタもがいていると、スカートが破けて真っ逆さまに、海面目掛けて落下した。
お母さん、ごめんね。 あたし、こっちの世界で死んじゃうよ!
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