第109話 ◆かぎ爪恐竜

◆かぎ爪恐竜


馭者ぎょしゃが繰り返し叫んだことで、馬車から降りて早く逃げろと言っていたのが分かった。


馭者があまりに慌てていたので早口になり、この国の言葉に慣れない自分には聞き取れなかったのだ。


エイミーに手を引かれ馬車を降りて、たった今上って来た坂道を全力で駆け降りる。


ギャル達は意外に足が速い。 こっちの世界の人間とは、骨格や筋肉が少し違うのかも知れない。


当然エイミーも速い。 


カップルの男も速い。


ん?  そしてカップルの女はあたしより、めっちゃ遅かった。


まあ、ぽっちゃり体系だから仕方がないかも知れないが男の薄情な事!


後ろを駆ける女を見たあたしは、更にその後ろにイケないものを見てしまった。


もしかしてモッフルダフが言ってた、少し怖い思いってこれかよ!


この時はマジでモッフルダフを、もういっぺん一本毛糸にしてやろうと思った。



そして、なんと砂ぼこりを立ててそこまで迫って来ていたのは、三匹のかぎ爪恐竜だった。


前に映画で見たことのある、ディノニクスとかいうヤツにそっくりだ。


体長は3mくらいで、メイアよりは少し小さい。


馬車を引いていた角の生えている豚は、馭者がさっさと逃がしてしまった。


あの角豚を逃がさなければ、あたし達は襲われなかったのにと思う。



あっ! メイアはドラゴンなので、あまり気に留めていなかったのだけど、ニーナがいない!


あたしは急ブレーキでストップして後方をよく確認すれば、なんとメイアに寄り添っているではないか。


なんてこった!  娘を置いて逃げてきてしまった。


シルフもあたしの胸の定位置で爆睡している。  まさにダメなママと母が分かった瞬間であった。


そして、いま一頭目のかぎ爪恐竜が、襲い掛からんとして二人目掛けて勢いよくジャンプした。


ニーナ、メイア、危ない! 逃げてーーーっ!


あたしは大声で叫んだが、二人には届かない。


ボンッ と言う音が聞こえてくるかのように、メイアがドラゴンに変化する。


二人に襲い掛かろうとしていたかぎ爪恐竜は、本能で相手が自分より強いことを悟ったようで、体をひねり、少し離れたところに着地した。


しかし、もう残り二頭も直ぐ傍まで迫って来ていた。  流石にメイアだけで3頭を相手に戦うのは無理だ。


ニーナが危ない!  シルフ、起きろ!!  ニーナが危ないんだ。 頼むから起きてよ!


シルフを揺すって起こしている間にも、2頭がメイアに飛び掛かり、もう一頭がニーナにじりじりと近づいていた。

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