第108話 ◆水晶の谷
◆水晶の谷
水晶の谷は、かなり山奥にあるらしい。 観光馬車が1日2本行き返りで4本出ているらしい。
港町の案内所で確認したら午前の便は、あと30分後に出る予定になっている。
あたしは急いでみんなを呼びに戻った。 リアムは前に見たことがあるので、今回はパスするそうだ。
とりあえずニーナには伊達メガネを駆けさせ、頭にはスカーフを巻かせて、目立たないよう変装させた。
メイアは、今日は幼女姿に戻っているので特に問題はない。
観光馬車は、遠く山々がうっすらと霞んで見えている方に向かって、ゆっくりゆっくり進む。
きっと、あの山の中に水晶の谷があるのだろう。
で、片道2時間半はかかるらしい。 これはもう寝るっきゃない。 みんな早起きしたので、首がガクンガクンしている。
いや、一人だけ例外がいた。 いつもは真っ先に居眠りするメイアが、ギンギンで起きている。
こいつは油断ができない。 きっと、なにかを仕出かすに違いない。
あっ! むぐぐ あたしはもう少しで、どでかい声を張り上げるところだったのを両手で抑え込む。
メイアがドラゴンの目|(爬虫類の目)でじぃっと見ていたのは、道の両脇に広がっている牧場に放し飼いになっているジャイアントラビットだった。
このデカ兎は魔物が出る密林地帯でたくさん食べたので、メイアはデカ兎がとっても美味しいのを知っている。
いきなり、パックリやられては困るので、そっとメイアに近づき羽交い絞め抱っこを決めた。
あたしの奇襲が功を奏し、メイアの目は子どものそれに戻った。
メイア、向こうに着いたら何か美味しい物を食べさせてあげるから、少しの間我慢しててね。
ほんとう? 約束だよ?
メイアは最近、自分に都合がいい言葉を結構覚えてきたし、都合が悪いことは知らないふりをする。
まさに5歳児くらいの知恵がある。
馬車は牧草地帯を抜け、いよいよ山道へと差し掛かり、くねくねと曲がった道を上ったり下ったりを繰り返す。
道もデコボコが酷く、馬車も大揺れだ。
観光馬車には、あたし達の他にギャル風の女の子3人とカップルらしい二人連れが乗っている。
エイミーはリアムが一緒に来なかったためテンションがダダ下がりで、なぜかカップルにガンを飛ばしてるように見える。
エイミー、ちょっと止めなさいよ。 エイミーを肘で突き、小声で注意する。
わかった、わかった。 もうしないと言いながらニヤリと笑うところが、爆弾女らしい。
そんな会話をしていると、馭者ぎょしゃが、前方に何かを見つけ慌てた様子で何か叫んだ!
確かに前方に尋常じゃない砂ぼこりが沸き立っている。
そう、何かが馬車に向かって、もの凄い勢いでやってくる。
今日は観光目的なので、武器は持っていない。
ふと気づけば、メイアの目が、また爬虫類の目になって前方を睨んでいた。
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