秘密の筆談

ほかの兵士も紙の鳥がひとりでに動いていることに気づき、部屋がざわつく。それを制して、フェリペは紙の動きを見守った。


 紙の鳥は、ゆっくりと机の上を滑るように動き、そのまま宙に浮かんで部屋を出る。廊下を進み、マリポーザの部屋に向い飛んで行く。そして開けてある扉を通ってマリポーザの机の上に着地した。


「ここに、何かあるのか?」

 フェリペは部屋を見渡したが、特に何もありそうもない。ベッドや床の上にはマリポーザの洋服などが散乱していた。少女が読むような小説やぬいぐるみといった私物も乱暴にばらまかれている。

「手荒いな」

 捜査とはいえ、女性の部屋を荒らすのは乱暴すぎやしないか。もう少し配慮をできないものか、とフェリペは眉をひそめる。


 せめて少し片付けようか、とかがんで床の上のものに手を伸ばしかけ、フェリペは手を止めた。目の端で何かが動いた。紙の鳥が止まったあたり、そう、机の上で。

 身体を起こして机を見ると、羽ペンがひとりでに動き、紙に何かを書いている。フェリペは机に近づく。白い紙に次々に文字が現れる。

「私はマリポーザです」

 フェリペは自分の目を疑った。なおも目の前で羽ペンが文字を書いていく。


「フェリペさんにお願いがあって、これを書いています」

 そこまで読んだところで、フェリペは羽ペンをつかんだ。羽ペンは驚いたように震えたが、大人しくなった。そこでフェリペが同じ紙に自分も文字を書き込む。

「マリポーザ、そこにいるのか? 僕は、フェリペはここにいる」

 そして机に羽ペンを置く。するとまた、羽ペンは宙に浮き、文字を書き始めた。


「ああ、良かった! 本当はここで手紙を書いてフェリペさんのお屋敷に持って行こうと思っていたんです」

「マリポーザ、本当に君はそこにいるんだね。でも姿が見えないのはどういうことだ?」

「詳しくは後で話しますが、今は私は精霊界にいるのです」


 そこまで筆談をしていたが、フェリペは驚いて動きを止める。そしてしばらくしてからまた書き始める。

「精霊界に? 人間界に戻って来れるのか?」

「はい。そのために、フェリペさんに協力していただきたいことがあります」

「わかった。詳しいことは後で聞こう。とりえず、僕は何をしたらいいんだい?」

「では、まず……」

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