第14話



私は目を瞑る。


大学で見た桜、初めて喋った並木道の紅葉、軽井沢の青々とした緑、白いドレス・・・


あなたとの思い出達が瞳の奥でクルクルと回る。


「・・・許して、くれる?」


胸に抱き締めた彼は何も返事をしなかった。


「・・・・・あなたに、私のいない世界で生きていって欲しいと、願う私を、許してくれる・・・・・・?」


胸が掻き毟られる。


心が、離れたくないと叫んでる。


一緒にいられるならどんな闇の世界でも構わないと叫んでる。


そばにいたい。そばにいたい。他に何もいらない。あなただけがいればいい。


心が、声に出してはいけない言葉を叫び、血を流し、叫んでる。


「ごめん・・・・・・、ごめんね・・・・・・・!」


叫んではいけない言葉を飲み込みながら、涙がボロボロと毀れた。


彼を力いっぱい抱き締める。


「・・・・一緒に生きていけなくて・・・・ごめんね・・・・!!」


私の悲鳴にも似た叫びに、彼の口から嗚咽が漏れた。


「愛してる・・・!愛してる!愛してる・・・・・!」


私の背中を抱く腕が、私の髪を撫でる。


痛い位に私の身体を抱き締める。


私の心を全部。彼に伝える言葉はきっとこの世にはない。きっとどこの世界にもない。


でもどうか少しでも伝わるように、どうか少しでも彼が楽になれるように、神様に祈りながら愛する人を抱き締める。



「・・・・・愛してくれてありがとう・・・・・」


涙が、零れる。

彼の背中越しに見えた琥珀がキラリと輝く。

琥珀色が、滲む。


「生きてね・・・・・・」


彼を抱き締めて耳元で告げる。


「生きてね・・・・?来年も、再来年も、10年後も、20年後も、誕生日を繰り返してね・・・・・?」


椋が涙でぐちゃぐちゃな顔で私を見た。



「あなたは、今日、1つ歳をとる」


彼の頬を撫でる。


「あなたは、来年の今日、また1つ歳をとる」


彼が頬を撫でる私の手をぎゅう・・・と握り、摺り寄せるようにまた頬につけた。



「あなたは、生きてる」




そう、あなたは生きてる。



生きてる。


あなたの世界は、私の入れない世界。


あなたはそこで、生きてる。



「あなたは・・・生きてる・・・・」


私はもう1度彼を抱き締める。

最期の別れを告げるために。


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