第13話


誕生日の夜。


私達は小さなホールケーキに蝋燭を立てる。

無理して歳の数の蝋燭を指したせいで「穴だらけ!」と私達は見つめあって笑う。


行儀が悪いと知りながら、床にブランケットを敷いて私達は寝転びながら、床に置いたケーキを眺める。


暖かい最近だったけれど、今夜は冷える。



灯りを消した部屋の中で炎のオレンジ色だけが私達を照らす。


ぼんやりと浮かぶその灯りの中で 椋が笑う。


「歌う?」

「歌おう」


私達は寝転がったまま歌う。


 Happy birthday to you,

 Happy birthday to you...



歌い終わって二人でパチパチと拍手をする。

彼が蝋燭を吹き消す。

蝋燭のあまりの多さになかなか火が消えなくて私達はまた笑う。


何回か息を吸い、また吹いて・・・全ての蝋燭が消えた。





物語の終わりみたいに、静かに消えた。



真っ暗な部屋の中で彼の声が耳に届く。


「・・・・愛してるよ」


彼の細く長い指を握り締める。


「うん・・・私も、愛してる」



窓から差し込む月の光を頼りにグラスにお酒を継いで、私達は一口ずつ口に含み、深い深いキス。

グラスの中のお酒が琥珀色に光る。


2人の記念日は今日で何回目だろう。



お互いが少し起き上がって向かい合い・・・ぎゅう・・・・と抱き締める。



「・・・・ねぇ。・・・・思ってること、ちゃんと話して?」


胸に抱き締めた彼が、小さく言う。


・・・・・・昔からそうだった。


椋は、いつも私が思っていることを全部分かってる。


分かってる。そういう人だった。

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