第12話
大学2年の秋。
道の上、黄色い絨毯を敷き詰めたかのような銀杏並木を私はゆっくりのんびり散歩していた。
空は快晴、秋晴れだった。
道脇のベンチに彼を見つけ、彼もまた、私を見つける。
また先にわたしが目を逸らし、彼の前を通り過ぎようとしたとき。
「葉っぱ……いっぱい、散ってるね」
椋が初めて私に声をかけた時のその言葉を、秋風が攫っていってしまわないようにずっと私の胸に留めておけたらいい、と思った。
口元を隠していたストールを、少しずらして話す彼の記憶が褪せていってしまわぬよう、この昼下がりに名前を付けて自分のものにしたい、と思った。
青い空からさざめく太陽の白い光は、私たちを温かく照らしている。
「隣、どうですか?」
彼が優しく微笑み、ベンチの、彼の横のスペースをトントンと叩いた。
ふんわりとしたお日様のような笑顔。
その顔を見た時、私はこの人と恋をする為に生まれてきたんだ。と思った。
この人を愛し、愛される為に生まれてきたんだ。と思った。
小さな寝息を立てる椋を抱き締める。
「ん・・・・・?どした・・・・?」
少しだけ寝ぼけたまま、彼が私の身体を抱き締める。
「べつに?」
「そ?」
瞳を閉じたまま椋が私の髪を撫でる。
「・・・・・・ねぇ・・・・何か話したいことある?」
「・・・・ないよ。おやすみ・・・・」
私は椋の頬を撫でる。
クスクスと笑いながら椋がまた眠りに落ちていく。
まるで深い海のような濃いグリーンのTシャツの上から
椋の背中を撫でる。
ドクン・・・ドクン・・・規則正しい心臓の音。
掌に伝わる体温。
柔らかい髪を何度も撫でる。
すべすべの頬を撫でる。
「・・・ん・・・・」
また寝ぼけた椋が小さく笑う。
髪の毛の柔らかさも、頬の形も、瞳の色も、温かい唇も、筋肉がついた細く固い身体も、お日様みたいな香りも
全部全部、覚えていよう。
枕元の時計がカチ、と音を立てる。
深夜0時。
今日は、彼の、誕生日。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます