第11話


窓辺に置かれた小さな琥珀が、淡く光って私を照らした。


マルは真っ暗な道の中を帰っていった。


「また来ます。寒いからさ。風邪ひくなよ?」そうサラリと言ってマルは笑った。


椋は微笑みながら、ゆっくり手を振った。


マルの足が枯葉を踏んで音を立てて歩いていく。

マルが大きく手を振るのを見て、椋が小さく笑った。



玄関のドアを閉め、クルリと私を振り返る。


「・・・・・お風呂、お湯溜めようか」


オレンジ色の灯りに照らされた椋の顔。

初めて見た時から幼く笑うなあと思ってた。


初めて会ったのは大学の講堂。


葉桜になった桜の木が、窓の外で風に吹かれてた。

ぴゅう・・・と強い風が吹いて、私の手帳がバサバサと開いた。

その薄い紙の向こうに、椋を見ていた。



どうしてか目が離せなくて、でも声もかけれなくて、新しい生活に浮き足立つ周りの中で、彼のいるそこだけが淡い光を放ってた。


数え切れない学生がいる中で1度も言葉を交わすこともなく名前も知らないまま、よく目が合った。

最初は偶然だと思ってた。

でも何度か目が合ううちに、どんどん目が合う時間が長くなっていった。


恥ずかしくなって私が目を伏せる。


しばらくしてまた彼を見ると、友達とじゃれあって笑ってる。


気のせいかな・・・と思いながらも私は頬が熱く、苦しかった。



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