第15話


きっと私達は2人で1人なんだと、いつも話してた。

それくらいお互いが必要で大切で、お互いが何を考えているか分かった。

お互いが引き留めれないことを知っている。

愛する人を楽にしたいと思ってる。



「愛してくれて、ありがとう」


その薄い茶色の瞳を見ながら、ゆっくり、ゆっくり告げる。


あぁ神様。もう少し。もう少しだけ。


「私は、あなたに会えて幸せだった」



あぁ。どうか、どうか。

彼を包む全てのもの達に願う。



彼に 私の死が 少しでも優しく伝わりますように。

私のいない世界が、彼を優しく包んでくれますように。



「...俺も、俺も・・・・」


椋が泣きながら、苦しそうな顔で息を止め。


一瞬下を向き、嗚咽の合間に大きく息を吐いた。


「俺も」


顔を上げた彼は少し微笑み、私を見つめる。


「俺も、幸せだった・・・・・・・・!」


握り合った私の手が、どんどんと薄くなっていく。


さようならは言わない。

さようならは言わない。


愛してる。愛してる。ありがとう。愛してる。


温かい言葉だけを彼に。



「お誕生日・・・おめでとう・・・・」


最期に、精一杯の笑顔と祝福を、彼に。


私達は御伽噺の扉を閉める。


塞ぎきったその先には何も無い。

知っている。気づいている。

だから私もあなたも前を向くのでしょう。


2人が並べたお酒が入ったバカラのグラスが

月光に反射してキラキラと光り、星屑のように瞬いて消えた。

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