第8話

リビングにコーヒーの香りが漂う。


マルが「いい家だな・・・」と微笑みながら床にしゃがんだ。


「はい、コーヒー」


部屋に漂うコーヒーの香りの中、マルは少し眩しそうに椋を見つめている。


マルにマグカップを渡した後、白いウェッジウッドのペアのマグカップにまたコーヒー注いだ。


1つを左手で持ち、もう1つをトン・・・と静かな音と共に、私が座っているソファの前のローテーブルに置いた。


「ありがとう」


彼が、どういたしまして?という顔で微笑む。



ずず・・・と彼が立ったままコーヒーを飲み「あちっ」と言った。



マルが声をあげた。


「...おい」


小さく、呟くような、絞り出すような声。





「・・・・・・もう、やめろよ・・・・・・東城


...あいつは・・・もう、いないんだぞ......」



マルが瞬きを何回もしながら、椋にそう告げるのをコーヒーの湯気を挟んで私は見つめる。





...甘い、世界が、壊れていく。

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