第7話いいか非リアども。女子は好きでもない男子に頭を撫でられても嫌いになるだけなんだぞ

 寿久がキャンセルのコマンドをタップすると、アップデート画面が自然と引っ込み美少女スマホの瞳に光が戻った。

 涙を流し始めてから寿久がキャンセルのコマンドをタップするまでの記憶がない美少女スマホは、心配げに見つめてきている寿久に尋ねる。


「なんで私をじっと見つめるんですか?」


 その声は起伏に富んでいた。

 尋ねられた寿久の頬が引きつる。


「え? そうだなぁ……そこに君がいたから、かな?」

「珍しくボケに回ってますね」

「ボケ? まぁそういうことでいいか」


 ハハハ、と無理に何か取り繕った笑顔で、寿久は美少女スマホの言葉を認める。しかし胸中ではすごく安堵している。

 そして脈絡もなく話題を取り換える。


「何かやりたいことあるか?」


 迫るようにぐいっと前のめりに顔を近づけて、寿久は聞いてみた。

 美少女スマホは突然寿久の顔が近づき一瞬気圧され、次いで聞かれた内容に毒気を当てられた。


「やり、やりたいことですか?」

「おお、なんでもいいぜ」


 似合わない爽やかスマイルで親指を立てて言う寿久から、身を縮めるように胸の前で両手を握り合わせて、ささっと座ったまま美少女スマホは距離をとる。


「なんか……怖いです」

「怖がられる要素がどこにあった!」

「あっ、それです。その感じが一番好きです」


 そう口にした美少女スマホはしばしの沈黙に数回瞬きして、じわじわと自身の恥ずかしい失言に気がつくと、俄然顔を赤く染め上げて握り合わせていた両手をばらし前に突きだして、わたわた振って発言撤回を申し出る。


「さっきの好き発言はナシです! そんな私の赤裸々なワード、聞かなかったことにしてください!」

「それは……無理だろ」


 そうですよね、と美少女スマホはしょぼんと肩を落とす。

 肩を落としてがっかりする美少女スマホを見て、無意識に寿久は右手が伸び美少女スマホの頭を撫でさすっていた。

 寿久が自身の奇行に気づいた時には、美少女スマホは上目遣いで唇を尖らしながらも まんざらでもなく、撫でてくる手を払おうとせずされるがままにはにかんだ。

 嬌羞(きょうしゅう)を含んだ美少女スマホの上目遣いの視線に堪えられず、寿久の方から撫でるのをやめて身を離すと、目も向けられない風に俯いて詫びを口にする。


「なんか、ごめん」

「いいですよ、別に」


 へへへ、と嬉し恥ずかしで美少女スマホは相好を崩した。


「やりたいこと、決まりました」

「そうか。で、何をやりたいんだ?」

「夜、一緒に寝たいです」

「一緒に寝たい……だと」


 心中穏やかでなくなってしまいかねない要望を提示してきた美少女スマホに、急に寿久の首の筋肉が張り切る。


「何でもいいぜって言ってましたよね? 二言はないですよね?」


 揚げ足を取った美少女スマホは整った可愛い顔にそぐわず、相手に拒否権を与えない小悪魔的な微笑みで寿久を圧して頷かせた。






 


 


 



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