第98話 新作攻撃!
「いや……だからさ……」
「はい……。わかってます……。その……長田さんがおっしゃりたいことは……」
ピザ屋さんに来た以上はやっぱりまずはピザですよね!
ということで、ピザは外せない。
定番のマルゲリータでしょ。あーでも、何この高菜めんたいって。いやいや待って、長田さんはツアーで明太子食べまくって来たんだって。――ん? きのこたっぷりチーズピザですと? あーでも、サーモンとほうれん草っていうのも美味しそ~う!
ってな感じでですね。25㎝くらいのピザを2枚。
それからやっぱりちょっと気を遣ってサラダ。
これで後はデザートを、って予定だったんだけど、どういうわけだかパスタも来たのよね。新作なので、ぜひって。そしたらモー断れないじゃん? 有難くいただきまーすって。
で、まぁそれくらいは難なく食べた。
ヨユーヨユーって。
そしたらね、出るわ出るわ。新作。
いや、量自体はね、ちょびっとなのよ? ほんと小皿とかに。3口分くらいかなーって。
でもね、コース料理かな? ってくらいにどんどん来るのね。
何これ? 大丈夫? って厨房見たら奥さんと旦那さんめっちゃ良い笑顔で親指立ててるの。
配膳に来たさっきのおにーさんも小声でぼそっと「タダなんで」なんて言いながら。まぁ、その言葉に目がくらんだ、というよりは、どれもこれもがめっちゃ美味しくてついつい。
で、それでも私達は辿り付いたの、リピーター続出とやらの『スイーツ』に。
何ならまだ若干ヨユーあったしね?
まさかここでも新作攻撃受けるとは思わなかったよね。
目を付けてたやつをいくつか頼んで、まずはおにーさんお勧めのピスタチオのムースから――……って大口を開けてたところに、頼んでないはずのプチケーキが……。
――で、前回同様にまんまるになってしまったお腹をさすりながら、少し温めに入れてもらったほうじ茶を啜っている、という状況である。
「どうして俺らは学習しねぇんだろうな」
「どうしてでしょう……。美味しすぎるのが罪なんでしょうか……」
あまりにお腹が苦しく立つのがかなり億劫になってしまっている私を見て、長田さんはクククと喉を鳴らした。
「確かにこの美味さは罪だったな。しかし、腹はきついが悔いはねぇ」
「無いです、全然。でも、他のお客さんに迷惑かもですから、これ飲んだら出ましょうか」
「そうだな」
重たすぎるお腹を支えつつレジに向かうと、パタパタと小走りでやって来た奥さんは「まぁ!」と目を丸くして驚いた。お腹をさすりつつゆっくりと歩いているのを見て妊婦さんかと思ったらしい。違います、この中には新たな生命なんて宿っていません。こちらの絶品すぎるお料理の数々が格納されているだけです。
……みたいなことをふんわりとオブラートに包んで伝えてみる。
それでも奥さんは「まぁまぁ」と何だか嬉しそうだった。
食べた量の割に、お代はかなり安かった。
何せそのほとんどが『新作の試食』なのだ。
「ご馳走さまでしたー」
そう言ってカラン、とお店のドアを開けた時、パティシエのおにーさんが慌てて走って来た。
「……っす、すみません!」
「――?! は、はい?」
「お? 忘れもんでもしたか」
おにーさんは「いえ」と短く呟いて首を横に振った。そして、きちんと気を付けの姿勢を取ってから深々と頭を下げてきた。
「ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。すっごく美味しかったです」
「おうおう、マジで美味かった。ピザも。もちろん、おにーさんのスイーツも」
「ありがとうございます。……いえ、そうじゃなくて」
「……はい?」
モゴモゴと口ごもりながらおにーさんがお話してくれたところによると、例の新作というのは、もちろんそう頻繁に出すものではないらしい。
『この人は美味しくたくさん食べてくれるだろう』
と奥さんが判断したお客さんにのみこっそり出すらしく、あの席はそのためのものだったのだ。
どーりでかなり奥まってると思ったわ……。
で、晴れて奥さんのお眼鏡に適った私達は、まず、ご夫婦からの新作攻撃を文字通り『喰らった』わけなんだけども……。
「まさかおにーさんのお眼鏡にも適ってしまうとは……」
車の中で、私はぽつりと呟いた。
「いやー、高町さんと飯食うとすげぇな。こんな特典があるとは」
「私? 私ですか? そこに長田さんの可能性はないんですか?」
「え~? 俺じゃねぇって」
「そんな。いっぱい食べそうじゃないですか!」
「いやいやいやいや、ただ量食えば良いってもんじゃねぇんだって、ああいうのは。やっぱ『美味そうに』じゃねぇと。だから、高町さんだな、間違いねぇ」
「そ、そんな……」
これ、私馬鹿にされてたりしませんかぁっ?!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます